2-3.手近なところから、とにかく行動を起こす

ハウステンボスはなぜ再生したのか
 長崎県佐世保市にあるテーマパーク・ハウステンボスが、旅行大手エイチ・アイ・エス(H
IS)のもとで再建に着手して約半年。二〇一〇年九月期の決算(決算月変更で変則六ヶ月の
会計期間)で約三億円の黒字となった、というニュースが飛び込んできました。
 HISが開いたハウステンボス支援決定の記者会見で、澤田秀雄HIS会長は、「三年後に
は黒字化したい」「三年後に大幅な赤字が続くようなら撤退する」と述べていました。それが
一年目で経常利益の黒字化に成功。そもそも、一九九二年の開園以来一八年連続で赤字だった
ハウステンボスをどのような方法で黒字化させたのでしょうか?
 黒字化の要因は主に三つ、と言われています。
 第一に、あまりカネをかけずに新しくした設備やコンテンツによる集客効果。
 たとえば、夏にオープンしたお化け屋敷は不採算で閉鎖した美術館を改装したもの、新機軸
の「ハロウィーンのカボチャの山車」も他の出し物の使い回し。フジテレビの人気アニメ番組
「ワンピース」の体験型施設も、フジテレビが費用の三割を負担して開設したものだとか。
 第二に、入場料の値下げ。約八〇ヘクタールの敷地のうち二割を無料開放し、残りの八割(オ
ランダの町並み再現ゾーン)の入場料も、大人三二〇〇円から二五〇〇円と約二割、引き下げ
ました。たくさんの顧客に足を運んでもらい、飲食や買い物で稼ぐ、という作戦への転換です。
その結果、四月―九月の入場者数は八六万五〇〇〇人で前年同期比一七・二%増、特にかき入
れ時の夏休み期間の入場者数は三八%増だったそうです。
 第三に、徹底的な経費節減。販売管理費は、四―六月期で前年同期比二五%、六億五〇〇〇
万円! を削減しました。主に施設の減損処理による減価償却費の圧縮、人員削減で合計約
四億五〇〇〇万円を圧縮。さらに、地元の佐世保市からハウステンボスの再建を引き受ける見
返りに年間八億八〇〇〇万円の固定資産税相当分を向こう十年間「再生支援交付金」として受
け取る恩恵を受けたことも大きな効果を発揮しました。(注1)
 また、ある人から聞いた話によると「手近なところから徹底的にコストカットしていった」
という話も聞きます。たとえばこれまで庭師に依頼していた園内の清掃管理をスタッフが行う
ようにしたとか。
 こうしてみると、あまり大がかりなことはしていません。新しい施設も使い回しや他社との
協働でカネをかけず、入場料の値下げやコストカットも、手近なところを見直したに過ぎませ
ん。
 そういえば、「手近なところから見直しをして成功する」の逆パターンを思い出しました。
 最近読んだ『日本軍の小失敗の研究』(三野正洋著、WAC)という本。太平洋戦争敗戦の
原因の一つは小さな失敗の連続だった、ということが書かれています。
 たとえば戦闘機。日本の戦闘機は、欧米の第一線級戦闘機と比較して、航続力や運動性能は
非常に高い能力を持っていたそうです。しかし、戦闘機に搭載する火器がバラバラだった。ア
メリカは、いち早く軍用機搭載火器の統一化を図り、大量生産を可能にした、といいます。豊
かな国が統一された火器を大量生産するのに対し、貧しい国のほうが雑多な種類の兵器を装備
するのですから、物量面で大きな差がでてしまいます。
 さらに驚いたのは、スロットルレバー操作の不統一。スロットルレバーとは、鉄の棒を押し
たり引いたりしてエンジンの回転数を制御するもので、空中戦で最も頻繁に使うものです。と
ころが日本陸軍の戦闘機は、ある機種はレバーを押し込むとスロットルが「開」となり出力が
上昇するのに、別の機種はレバーを引くと出力が上昇する、と操作が機種によって正反対なの
だとか(自動車に乗っていて、特定のメーカーの自動車はアクセルを戻すとスピードが上がる
構造になっているようなもの
?!
)。戦闘機のパイロットは戦争の全期間を通じて同一機種の機
体に乗るわけではなく、何種類かの戦闘機を乗りこなさなくてはいけないそうで、機種が変わ
ると慣熟訓練をするそうです。とはいえ、いざという時に昔の癖で正反対の操作をする人がい
ても不思議ではありません。
 このように、戦闘機一つとっても、細かい失敗がいくつも出てきます。大きな戦略・戦術と
いうレベルから見れば本当に小さな失敗ですが、小さな失敗をそのままにして傷口を広げてし
まうという一面があったのではないかと思います。
 ここ二〇年程、日本の企業の負け方を見ると小さなところでかなり負けているような気がし
ます。収益改善をするには、大それたことは考えずに、すぐできて手近なところから手をつけ
ることが大事です。
間接的利益を確保する
 すぐできることから始めることは、何も費用を削ることだけではありません。
 たとえば、間接的利益を増やすこと。家電量販店のヤマダ電機が代表格かもしれません。
 家電量販店は他の小売業と比べて利益率が低いのが特徴です。激しい価格競争がありますか
ら(最近では、インターネットでいくらまで値下げしてもらったか、どんなサービスをつけて
もらったかを事前にチェックして量販店をハシゴして価格交渉する消費者も多いそうです)。
ヤマダ電機は売上高二兆一六一億円、売上高シェアは三五・一%と業界ナンバーワンの売上高
とシェアを誇ります。業界二位のエディオンの売上高が八二〇〇億円(売上高シェア
一四・三%)と比べても、圧倒的なトップ企業であることがわかります。(図1)
 ヤマダ電機が業界トップ企業であることは、売上高だけではありません。利益率(売上高純
利益率)を見ても、エディオンやコジマ、ビックカメラなど他の大手量販店が一%程度である
のに対し、ヤマダ電機は二・八%と約三倍です。売上の規模が大きく、さらに利益率も(同業
他社に比べると)かなり高いのです。薄利多売というわけではなさそうです。
 ではヤマダ電機は何をしているのか。たとえば企業法人・学校・官公庁を対象にした法人向
けサービスや、サービス・ソリューションビジネスに力を入れており、メインの家電販売以外
の「間接的利益」をしっかり確保しています。
 法人向けサービスでは、電化製品の販売だけでなく、オフィスネットワークの構築やセキュ
リティシステム・テレビ会議システム導入の提案などを行っているそうです。ヤマダ電機でハー
ドウェアを安く買って、ソリューションまで手がける、というわけです。全国一八〇店舗に法
人向け専用カウンターを設け、本格的に取り組んでいます。
 サービス・ソリューションビジネスはさらに多岐にわたります。グループ会社が製造するヤ
マダオリジナルパソコンの販売をはじめ、ソフトバンクと提携したブロードバンドサービス、
オール電化や太陽光発電システムに対応する設置・施工サービス、カーメンテナンスを中心と
した「のりものサービス」、デジカメプリントサービス、車の買取りサービス、全国の店舗で「ヤ
マダパソコン教室」の運営といった店舗でのサービスに加え、他店での購入品も対象とする大
型家電出張修理サービス、パソコン買取り査定サービス、エアコンクリーニング出張サービス
などのWEBサービスも行っています。
 これらのサービスそれぞれに対して、利益を取ることができます。価格競争の激しい家電販
売と比べると、ソリューションサービスは利益が取りやすいかもしれません。間接的利益もヤ
マダ電機の規模になれば、無視できない大きな収益源になると思います。
 家電量販店に限らず、商品が差別化しづらい業種の場合、間接的利益を積極的に取り込んで
いくことが重要です。ヤマダ電機ほど多岐にわたるサービスはすぐにできないかもしれません
が、手近なところで間接的利益を得る方法は、必ずあると思います。
 最後に、私の経験から一言。
次の一手を打つときは、営業利益をまず黒字にしてからにしてください。よく営業利益が赤
字のままで、新しい事業を始めたり、大規模な広告宣伝を打ったりする企業がありますが、順
番が逆です。
 手近なことから始めるときも、順序があります。まずは利益が出せるようにすることが先決
です。

利益を出すためには、大きなことを考えず手近なところからやってみる。費用の見直し(費用面)でも、間接的利益の確保(収益面)でも構わない。ただし、次の一手を打つ場合は営業利益が出るようになってから着手すべし。