2-1.売上を伸ばさずして成長なし

ジョンソン・エンド・ジョンソンの「表の顔」と「裏の顔」

ジョンソン・エンド・ジョンソンという会社はご存知ですよね。
世界五七カ国に二五〇以上のグループ企業を有し、総従業員数約十一万四千名、年間の総売
上高は約六一九億ドル(二〇〇九年度)という「世界最大のトータルヘルスケアカンパニー」
です。
歯ブラシの「リーチ」や使い捨てコンタクトレンズの「アキュビュー」、切り傷や靴擦れの
ときにお世話になる「バンドエイド」など、ジョンソン・エンド・ジョンソンの名を冠さない
多彩なブランドも抱えている、というのはちょっとした雑学(笑)。
「フォーチュン・マガジン(FORTUNE Magazine)」による「世界で最も賞賛される企業
(World’s Most Admired Companies)」調査で第四位、米国の投資家向け金融情報誌「バロン
ズ(Barron’s)」による「世界で最も尊敬される企業一〇〇社(100 World’s Most Respected
Companies)」で第二位(いずれも二〇一〇年度)、米国の調査会社ハリスインタラクティブ社(Harris Interactive)とレピュテーション研究所(Reputation Institute)が開発した「企業評
価指数(Reputation Quotient; RQ)」(企業の評判を測定するための標準化された指標)は第
二位(二〇〇九年度)―と、メディアや研究機関からの評価も高い、世界的なエクセレントカ
ンパニーの一つです。
これほどの優良企業ですから、ジョンソン・エンド・ジョンソンについて書かれた書籍はた
くさん出版されています。そのうち、多くの書籍はジョンソン・エンド・ジョンソンの企業理
念・倫理規定である「我が信条(Our Credo)」に関連するものです。(図1)
かつて、ジョンソン・エンド・ジョンソンの社長を務めた新将命氏も、同社への転職を決め
たのはヘッドハンターに「我が信条(Our Credo)」を見せられたことが決め手だったといい
ます。著書『経営の教科書』の中では、「『アメリカにもこんなにすばらしい理念の会社がある
のか!』という新鮮な驚きにも近い発見があり、ビジネスマンとしての心がインスパイア(鼓
舞)された」と、その感動を綴っています。(注1)
また「ダイバーシティ」プログラムへの取り組みを取り上げた書籍も多いですね。「ダイバー
シティ」とは英語で「多様性」という意味で、アメリカでは多種多様な民族・国籍・宗教など
を全てまとめて、また日本では女性の雇用・登用の推進と身体障害者の雇用促進に注力しているそうです。「我が信条(Our Credo)」の一節、「社員一人一人が個人として尊重され、その
尊厳と価値が認められなければならない」の実践として注目されており、ジョンソン・エンド・
ジョンソンといえば「社員を大事にする会社」というイメージの方も多いかと思います。
ここまではよく知られた「表の顔」。実はジョンソン・エンド・ジョンソンが優良企業とし
て君臨するのに、あまり語られることのない「裏の顔」もあるのです。
先ほどお話ししました新将命氏が、いよいよ社長就任の日を迎え、上司にあたるイギリス人
会長の部屋に出向いた時の話です。会長は、新氏に椅子をすすめながらこう言ったそうです。「ミ
スター・アタラシ、おめでとう。今日からあなたはこの会社のリーダーだ。ついては、あなた
にぜひ言っておきたいことがある」と二つのことを言われたそうです。そのうちの一つが
「まず何より業績を伸ばせ。ただし、たとえどのような場合であっても倫理的に問題がある
ことは『絶対に』やってはいけない」ということ。(注2)
この話の後半部分は、ジョンソン・エンド・ジョンソンの「表の顔」として数多く紹介され
ています。「裏の顔」は前半部分。会長は、「何より業績を伸ばせ」と言っています。
また別の人から聞いた話ですが、内部のポリシーとして「一に成長、二に成長、三・四がな
くて五に成長」がモットーで、常に三〇%は新商品を作る、といったことを徹底しているそうです。
世界的なエクセレントカンパニーであるからこそ、数字に徹底的にこだわる、というのが、
これまであまり書かれることがなかった「裏の顔」です。その上で結果として従業員を大事に
する、社会貢献活動に力を入れるといったことができるのです。
成長にこだわる姿勢は、ジョンソン・エンド・ジョンソンだけではありません。日本電産の
永守重信社長の経営は「一番以外はビリだ」という姿勢を貫き通しています。
ユニクロを傘下に持つファーストリテイリングは、全社的なメッセージとして「成長」を最
大のキーワードに掲げ、「成長しなければ死んだも同然という強い成長志向が当社のDNAと
いってもいい」(ユニクロの柚木治・人事担当執行役員)といいます。(注3)
いずれも、この景況の中で健闘し、成長を続けている企業の考え方です。このような景気だ
から売上は二の次、ではだめです。低成長だからこそ成長しなければいけない(売上第一、健
康第二と唱和している会社があると聞いたことがあります。これはネー(笑))
麻雀型のマーケット
低成長の中で成長するということは、麻雀をするようなものです。 今の若い人はあまり麻雀をしないようですね。麻雀は、最初にプレーヤーの「持ち点」があ
り、ゲームの勝敗によってプレーヤーが点数のやり取りをします。勝ったプレーヤーは、上が
りの役に応じて負けたプレーヤーの持ち点から点を奪う、といったゲームです。
低成長の中で成長するということは、経済全体のパイが増えない(または減っていく)中で、
自分の業績をいかに伸ばしていくか、ということに他なりません。まさに場全体の点数が変わ
らない中で、他のプレーヤーの持ち点を奪っていく、麻雀のようなものです。
仮に、経済成長しているマーケットであるならば、たとえ他のプレーヤーに持ち点を取られ
ても経済成長分でとられた点数をカバーすることができますが、低成長ではそういうわけには
いかない。
場全体の持ち点は一定なので、勝った人は負けた人の点を奪って倍の点差がつく、というの
が低成長のマーケットの特徴です。これも麻雀と同じ。
こうした世の中に対する大きな戦略とは、小さくなっていくマーケットでいかにシェアを拡
大していくかということが肝になります。
「一番以外はビリだ」の経営姿勢を貫く日本電産の永守社長は、「製品については世界一の品
質と精度でなければならないし、市場のシェアでも決して二位、三位に甘んじるようではいけない」と、市場シェアの拡大に強い意志を示しています。
経済成長しているときと違って、売上を伸ばして成長するということは、市場シェアを伸ば
していくことと同じ意味になります。他社のシェアをいかにして自分のシェアとして奪ってい
くか。低成長の時代は、麻雀型のマーケットなのです。
(注1)新将命著『経営の教科書―社長が押さえておくべき
30
の基礎科目』、ダイヤモンド社、二〇〇九年、P.39
(注2)新将命著『経営の教科書―社長が押さておくべき
30
の基礎科目』、ダイヤモンド社、二〇〇九年、
P.74
(注3)溝上憲文「ユニクロ式教育『店長は2年でつくる』」、プレジデントロイター、 二〇〇八年十一月十日

景気が悪くても、売上を伸ばし、成長しなければいけない。低成長時代で成長するためには、他人のシェアをいかにして自分のシェアとして奪い取るか、いかにしてシェアを高めるかを考えなくてはいけない。