4-3.営業の「理論も実践も」は難しい?!

ランチェスター理論の実践
──実践のハードル
 さて、私個人的には、ランチェスターの営業実践は、これはこれで実行するのにハードルが
高いと思っています(誤解しないでください。ランチェスターの批判ではないのです)。
 単純に言いましょう。弱者という前提で考えてランチェスターの地域戦略を取るとします。
 ある程度の営業マンの数がいります。
 同時に、商品がその地域に受け入れられなければなりません。
 でもその地域には、全国ネットの強者だけでなく、地元の強者もいます。
 ランチェスターは、ブームの時がありましたから、古いお客様で、これをやったことがある
人は何人か知っていますが、正直、成果は「日光の手前の駅だった」(今市=いまいち)だっ
たと言います。
 あまり理論が分かりやすく、素晴らしすぎるのかな? ともあれ、良い理論ではあるのです
が。弱者でもホントに弱者だったら、このやり方は無理ですしね。
マーケティングファースト
──マーケティング担当がいるアメリカの会計事務所
 もう二〇年前に親しかったアメリカの大手の会計事務所(世界中で一番大きい四つの会計事
務所を、通常「ビッグ4」と言います。)のパートナーだった人が、しきりに言っていたのは、
「マーケティングファースト」でしたね。あとの英語はわからなかった(笑)。
 その頃、アメリカの会計事務所のツアーを随分しました。
 一番びっくりしたのは、ちょっと大きい会計事務所には、マーケティング担当がいたことで
した。どんな顧客獲得をしているかと聞きますと、大体、セミナーアプローチでの顧客獲得手
法でした。
──紹介中心の日本の会計事務所
 日本では、会計事務所のお客様の獲得方法は、主に知り合いから紹介されるか、金融機関か
らの紹介です(今でも日本では基本的に変わっていません)。
 弊社も主に大手の金融機関からの紹介で、お客様を獲得していましたから、「つくづく日本
は恵まれているな」と思ったものでした。
 私より少し前に会計事務所を開業した先輩に、「都市銀行(当時。現在のメガバンク)の近
くの支店、および支店長さんと仲良くなっていれば十分食える」と聞いたことを覚えています。
 今思うと良き時代でしたね。
 さてその頃聞いたセミナーも衝撃的でした。
──キリストのマーケティング力
 「世界一のセールスマンはイエス・キリストである」
 「イエス・キリストはキリスト教を作ったことより世界中に普及したマーケティング力だ」
 キリスト教の信者は、怒るんじゃないかな(笑)。
 イエス・キリストは、偉くなる前に、エルサレムの近くの湖で魚を獲りに来る人から、みか
じめ料をとる仕事をしていて(今で言う、ショバ代?)、商売の感覚があったのかもしれません。
 その時、(ショバ代を払いたくなくて)漁獲量をごまかす人がいたらしく、それから、「サバ
を読む」という言葉が生まれたと、聞いたことがありますが、真偽の程はどーかな?
マーケティングで勝って営業で負ける
──売上は営業で決まる
 これは、ライオンと花王の例で『経営ノート二〇一一』でも書きましたが、理論(理屈)で
勝っても、具体的な営業で負けるケースが多くあります。
 「マーケティングで勝って営業で負ける」。昨年と重複しますが、ライオンが花王に負けた理
由を引用しますね。
 「アスクルの岩田彰一郎社長が雑誌だったと思いますが、印象的なことを言っていました。
岩田社長がライオンの社員でマーケティング担当だったとき、ライバルの花王と比べてライオ
ンがマーケティングで一歩リードしていたにもかかわらず、ある時から負け出した。
 その理由は、花王が、販売会社を使ってライオンの約一〇倍の人数の営業マンを動員して商
品を販売したことにありました。当時の花王は、丸田芳郎(まるたよしお)さん、という有名
な社長が指揮をとっていました」
 (ちなみに岩田社長は大学卒業後、ライオンでマーケティングをされ、三五歳のころに文房
具メーカーのプラスに転職。その後、プラスの一事業部としてアスクルを立ち上げた。文具の
通販という新しい業態、ビジネスモデルを開発した立役者である)(『経営ノート二〇一一』拙
著、東峰書房)
 商品に差別化がしにくい時代は、営業力が決め手、しかも営業マンの数に比例することを、
当時の丸田社長はよく知っていたんですね。
 花王HPによれば、丸田芳郎氏は、「一九七一年、社長に就任。一九八五年社名を花王と改
称する。一九九〇年六月会長)となっています。
 キャッチは、「実験の鬼・仕事師、比類なき『確信の人』だ。 ある日湧き出でるアイデアを
『神の啓示』と頑に信じ、遮二無二突き進む。このエネルギッシュな思い込みが、数数のヒッ
ト商品を 生みだした」
 丸田社長時代に花王は単なるせっけんメーカーから日本最大のトイレタリー・メーカー(総
合化学薬品・家庭用品メーカー)に押し上がりました。
 花王は一九八四年三月期年商三三〇六億円を達成したとありますから、この時代にライオン
を抜き去ったんですかね。
──企業はトップで決まる
 それにしても、当時の社長在任は丸田さんの例でも二〇年近くやっています。ことをやり遂
げるには、今の日本のビッグビジネスのトップの在任期間はあまりにも短すぎる。丸田さんの
例を見るまでもなく感じます。
 それと企業は、人、トップ次第ということもつくづく感じますね。
 これも余談ですが、「広告は商品の肥やしだ」と言って日本で初めて広告に力を入れたのは
ライオンの創業者、小林富次郎(こばやし とみじろう)氏だと言われています。これもトッ
プが偉かった。
 やはり企業はトップで決まる?
もうひとつの営業力の話
──大群は勝利する
 ナックという、東証一部に上場している会社があります。この会社はダスキンの日本最大の
代理店です。
 ナックの創業者 (名誉会長)の西山由之 (にしやまよしゆき)さんが書いた『小説 店頭登
録銘柄9788物語 徒手空拳から100億円つかんだ男のビジネス戦記!』(ビジネス社)
という本があります。その中でなぜナックが躍進したかというこんなくだりがあります。
 「ダスキンも少しずつ注文が取れだした。けれど、こんな少しずつでは一〇〇億やるのに
一〇年掛かる。なんとかこのチンタラムードを脱出しなければ、一〇〇億はおろか一億だって、
疑わしい。
 そんなことを考えながらテレビを見ていた。ドラマは終戦記念の戦争ものだ。学徒動員だ。『う
ん? 学徒動員』『やっぱり大軍はおおかたその戦いに勝利する』──そりゃそうだ。『学徒動
員をしちゃえ』
──学生大集合
 思い込んだら西田(西山)の行動はすばやい。学生援護会に行って広告掲載の依頼をし、返
す刀で資金集めを開始した。学生アルバイトを大量に雇うつもりなのである。
 学生諸君に告ぐ!
 金を稼ぎたき学究の徒は来たれ!
 男女七歳にして席を同じうする職場なり!
 日給三五〇〇円 乞うご期待!
 少し大時代なキャッチコピーを載せてみた。部下たちは、変だの、おかしいのと、全員が反
対したけれど…。しかし西田は部下たちの、そういう進言を一切無視してあえて掲載してみた。
それが当たった」
 「来た、来た。学生諸君大集合である。なんと七〇人も来てしまった」
 やはり営業マンの大量投入がナックの飛躍の大きな原因です。しかも金のない時代に勝負し
たのですね。
人間はハラオチするまで時間がかかる
──経営者の決断力
 「決め手はマーケティング力」「マーケティングファースト」なんて思っても、人間というの
は、わりと愚かでハラオチするまで、長い年月がかかります。
 土地神話というのが日本のバブル崩壊までありました。戦後、土地の価格は上がりっぱなし
で、土地だけは別もの、日本の土地は下がらないと思っていたんですね。
 私自身も土地は絶対下がらないと思っていましたから、バブル崩壊で土地が下がって来ても
正直一時的だろうと思っていました。私の知人は、下がって「今が買い時だ」と言って、また
土地を購入し、再び、大きく損を広げた人もいました。
 そして一〇年ぐらい下落が続いて初めて、ああ土地だって下がるんだ、私の真のハラオチは、
一〇年かかりましたね。
 頭で「営業が決め手」と思っても、実際の行動に移すのには、私自身、結構時間がかかりま
した。ですから、弊社でも具体的に営業の人を雇いだしたのは、二〇〇〇年を過ぎてからです。
それもぼちぼち、チマチマ(笑)。
 だから、ナックさんの例を見るまでもなく、事業を成功させる人は、すごいな、といつでも
思ってしまいます。
 優れた経営者は、勝負ごとはチマチマやらないですものね。

営業理論はわかりやすいものもあるが、実践するとなると話は別。実際に営業マンを大量動員するなど、ある種の力業も必要となる。また理論的に大事だと思っても、真の意味で納得(ハラオチ)するには時間がかかるものだ。