2-1.先が読めない時代のリーダーとは

ガンバル経営
──日本の経営者に足りないカリスマ性
 本当は、リーダー論を語るほど、私に資格がある訳ではないのですが、戦略を語れば、リー
ダーを語らなければなりませんよね(笑)。だって、経営戦略の意思決定はトップしかできま
せんから。
 ちょっと前ですが、慶應義塾大学に清水龍瑩 (しみず りゅうえい)という面白い経営学の
先生がおりました。その先生は、アメリカを「マニュアル経営」、日本を「よろしく経営」と
名付けまして、私はいたく感心したことがあります。
 二〇世紀は製造業の時代と以前書きました。メーカーは、一度商品が当たれば商品の寿命が
長く、よろしく経営でも大丈夫、という話(怒られるかもしれませんが)。つまり、比較的リー
ダーシップを発揮する余地がない、ということです。
 昔、英語が苦手なある社長さんがいました。アメリカの会社との交渉事の後、皆の前で挨拶
を所望され、伝説のスピーチをしました。
 「ワン・プリーズ」(ひとつ よろしく)
 でも、現代のようになにが起こるか分からない時代、不確実性の時代のリーダーは、有事の
リーダーです。有事のリーダーは、ワン・プリーズと言うだけでは済まない(笑)。
 よくいわれるのは、サムスンと日本の電機メーカーとの対比です。
 「日本の電機メーカー全社が束になっても、サムスンの利益にかなわない。一番の違いは、トッ
プの違いだ」。雑誌では、「皇帝対サラリーマン」と比較しています。このトップの差が、情報
収集力と意思決定の速さに繋がって、ひいては、業績に繋がっている。
 たしか、大分前の新聞の記事で、現会長李健煕(イ・ゴンヒ)氏のことを書いていました。
まだサムスンが日本のメディアに頻繁に登場する前のことです。
 李会長は、「日頃、個人の事務所に閉じこもり、本ばっかり読んでいる。しかし、大事な決
断は、自分で現場を見て行う」
 確かこんな記事だったような気がします。私は、その記事に注目していました。それから、
何年かして、サムスンの時代が来ましたね。
 ストレスや不確実性の時代のリーダーは「カリスマ性が最も適している」。サムスンの例を
見ますとなるほど、と思ってしまいます。
 日本にも数が少なくなりましたが、カリスマ性のオーナー経営者は存在します。
 ソフトバンクの孫正義社長、ユニクロの柳井正会長兼社長、日本電産の永守重信社長、大御
所では、京セラの稲盛和夫創業者など、経営雑誌にいつも出てくるのは同じ顔ぶれ。カリスマ
も人材不足?
 これも、日本の産業の低迷の一因かもしれませんね。孫さんをよく知っている人に「どんな
人ですか?」と聞いたことがあります。「なにしろリスクを張る。かなわない」こんな答えで
した。その方も、一部上場企業の名のある経営者でしたが、そういう人でさえ、そんな答えで
す。
 「エンジンも強力だけど排気ガスもすごい」こんな揶揄も聞いたことがあります(笑)。
──カリスマ経営者たちの執念
 さて、いろいろな雑誌の受け売りですが、カリスマ経営者として名高い故スティーブ・ジョ
ブズ氏と孫社長は「共通項がある」そうです。これは、不確実性のリーダーとして参考になり
そうなので、メモしてみますね。
 まず、人生最悪の出来事でさえ、前向きに捉えています。ジョブズ氏は一九八五年に自らが
創業したアップルから追放される憂き目を見ますが、「クビは私にとって最良のことでした」
と振り返っています。孫社長もB型肝炎闘病中に「神が与えたもうた、いい休息なのだ。この
際、じっくりと財務諸表でも見て、会社全体の経理面をじっくり研究し、来るべき二一世紀の
闘いに備えよう」と考えたそうです。
 次に「どんな価値を提供するのか」を見据えて妥協しないこと。「(ジョブズ氏は)何もつく
らなかったのに、すべてをつくった」(ジョン・スカリー氏がジョブズ氏を評して)、「専門家
たちを集めたプロジェクトチームを作ってやったほうがいい」(孫社長初めてのプロジェクト、
自動翻訳機の開発のときの言葉)と、技術者をうまく使って自分の思い描く価値を実現する姿
は似ているのかなと思いました。
 それから、いわゆる「人たらし」と「しつこさ」。ジョブズ氏はアップルを追い出された後
のいわゆる失業中に、『スター・ウォーズ』シリーズで成功を収めた名監督ジョージ・ルーカ
スを追い回し、ピクサーの前身となるCG部門の買収に成功しました。孫社長も、ジフ・デー
ビス出版部門の買収に一度は失敗したものの、その後ジフ・デービス展示会部門の買収に成功、
その一年後に念願の出版部門も買収しました。一度ダメでもあきらめないしつこさ。
 「木村拓哉を(CM出演で)ドコモから奪ったのも、孫社長の人たらしだ」こんなことも書
いてありましたが、真偽の程はわかりません(笑)。結構マスコミもいい加減ですから。
 妥協しない、人たらし、しつこさ・執念──このあたりが、カリスマ経営者のキーワードか
もしれませんね。
 さて話は変わって「情熱、熱意、執念」「知的ハードワーキング」「すぐやる、必ずやる、出
来るまでやる」という三大精神に集約される独自の経営哲学を持って、常に前向きで積極的な
考え方・行動の重要性を説き、最も注目される経営者の一人として、その言動が各方面から注
目されているのが、日本電産の永守重信社長。
 「三六五日、朝から晩までずっと燃えている」
 「あなたの旦那さんは絶対に麻薬をやっている。そうでなければあんな働き方はできない。」
(これは永守社長の奥さんが知り合いから言われたそうです。)
 「一番以外はビリと同じ」
 「努力は人を裏切らない」
 「新幹線で寝る奴はバカだ」
(ある人が新幹線で永守さんを見たそうです。寝るか寝ないかみていたそうですが、答えは「やっ
ぱり寝なかった」・笑)
 といった言葉に代表されるように、カリスマ経営者の永守社長は猛烈社長のイメージが強く、
狩猟民族のリーダーのイメージそのもの、といった感じがします。
 独裁者、との批判を受けたファーストリテイリングの柳井会長は「ここまでやっているから、
あれだけの業績が上げられる」との評価もあります。
ガンバラナイ経営
 成長企業の経営者は、生まれ持った素質もすばらしいのでしょうけれど、その人ですらここ
までしなければ社長は務まらないのか。
 そう思った折に出会ったのが「がんばらない経営」という言葉です。提唱しているのは家電
量販店ケーズデンキの加藤修一会長です。都心の立地には見向きもせず、郊外の大型店がほと
んど。ポイントカードは発行せずに現金値引きで還元するのが特徴です。
 加藤会長は残業をほとんどせず、午後六時頃には会社を出て飲みに繰り出すそうです。業界
でダントツ一位のヤマダ電機の山田昇会長は「がんばらないなんてお客様に失礼だ」としばし
ばケーズデンキを評するそうですが、気づいたときには六四年間連続の増収、全国に三六〇店
舗超、近年業界三位にじわりと浮上してきました(図1)。
 がんばらないケーズ流の経営とは「できもしない目標に向かって無駄な努力はしない」とい
うこと。それに加えて同じように重要なのが「でも基本的なことは確実に実行する」というこ
とだそうです。なんだか禅問答のようですが(笑)。
 無駄な努力をしない、ということをもって「がんばらない」と言っているのだと思いますが、
ケーズデンキの実態を見ると、電機メーカーのケーズ担当者が舌を巻くほどの徹底したローコ
スト経営を実践しており、価格交渉もシビア。直近の売上高経常利益率は六・四パーセントと
売上高が三倍のヤマダ電機と肩をならべてトップクラスを誇っています。
 つまり、やることは徹底的にやっている。
 このご時勢で「がんばらない」と言い切る達観は、やはりカリスマなのかなと思いました。
 試しに私も言ってみました。
 「がんばらなくていいから、結果を出せ」
 すると「がんばらなくて結果が出なかったらどうしますか?」
 「おまえはクビだ!」(笑)
がんばるには方向性がある
──「差別化」とM&Aで企業を成長させる
 企業の生き残りに必要な三つの条件がある、と言います。(『時代の“先”を読む経済学 日
本と世界の潮流をつかむ
70
の視点』伊藤元重著、PHPビジネス新書)
 (一)もっとがんばる
 (二)差別化する
 (三)M&Aをしてライバルを消す
 高度成長の時は、(一)が有効でした。がんばれば結果がでました。
 でも今はがんばればがんばるほど、結果が出ない。ライバルを意識しすぎると過当競争に陥っ
てしまってしまいます。
 商品の差別化も難しい。今の時代商品にあまり、差が出ませんものね。また差別化の寿命も
短く、すぐマネをされてしまいます。
 そう考えますと、一番有効な手段は、マーケットが縮小していく今の時代はM&Aが必然の
戦略になってきます。M&Aは、マージャンのようにツモれば相手との差が倍になります。ま
た、オセロゲームのようにライバルを一瞬に味方にできます。
 ですから、一番労力を使って効果が薄いのが「がんばる」という戦略です。日本人は「がん
ばれ」と言われると条件反射のように「やります! がんばります!」と言ってしまうのです
が、がんばる方向性を間違えると、顧客の言うことを聞いて過度な値引き要請や極めて短い納
期を受けざるを得ない状況に追い込まれます。最終的には消耗戦に突入しますから、よほど体
力があるところでなければ生き残れません。右肩上がりの経済成長下であれば、がんばって無
理をした分は経済成長が補ってくれるため、がんばった分だけ自然と結果が出てきます。とこ
ろが今の経済状況下では、がんばることが有効かと言われるとクエスチョンマークがつきます
ね。
 (二)の「差別化」ですが、これはうまくいけば大きな効果が見込めます。しかし「言うは
易く行うは難し」ですね。これは! と思えるような差別化は結構難しい。仮に、差別化路線
の製品やサービスを打ち出せたとしても、すぐに類似品やより利便性の高いものが出てくる可
能性もあります。個々の打ち手はすぐに真似されてしまいますからね。
 ですから、差別化をするならばブランド戦略や知名度を上げるやり方が一番現実的ではない
かと思います。ここでもケーズデンキは面白い戦略をとりました。水戸市内に二店舗目を出店
した頃、流通業界で黄金期を築いていたダイエーが水戸市内に進出したそうです。問屋から仕
入れた価格よりもさらに安く販売するダイエーにはまるで歯が立たない。問屋を通さずにメー
カーと直接交渉して何とか価格は互角になったものの、それでも客は街中のダイエーに流れて
しまう。そこで考えたのが、ダイエーに通じる街道沿いに大型店を出店し、「水戸の秋葉原」
とデカデカと看板を掲げたそうです。不思議なことに、ダイエーはびくともしなかったけれど
も、周囲の電器店がばたばたとつぶれていったそうです。(『週刊東洋経済』二〇一一年九月
一〇日号)
 ブランドとは自分が何者なのかを示すものでしょう。ケーズデンキが他の電器店から一歩抜
け出せたのは、「私は水戸の秋葉原」と大々的に示したことが原因の一つではないかなと思い
ます。看板一つの「がんばらない戦略」でしょうか(笑)。
 もう一つ、差別化できるポイントはサービスの差別化。あいさつをきちんとする、ビジネス
マナーや礼儀をわきまえている、といった基本的なところでも、徹底すれば十分、差別化のポ
イントになり得ると思います。
 輸入食材を多く取り扱うスーパーマーケット・成城石井の社長だった大久保恒夫さんに聞い
たことがありますが、「あいさつ」をきちんと徹底させただけで売上が増えたそうです。
 最後の「M&A」は、買収するための資金が必要などのハードルがあります。しかし、買収
により、買収先企業の人材、ノウハウ、技術など有形無形の財産を手に入れることができます。
何より買収された会社のシェアを自社のものにできる上、敵が一社いなくなることのメリット
は大きいといえるでしょう。M&Aは、一から積み上げていくよりも、「がんばらない」でシェ
アアップが望める戦略です。
──M&Aは単純ではない
 私の経験を少し話します。
 私自身、弊社でM&Aを体験してきました。東京で規模が多少拡大できたのも、旧辻会計と
本郷会計の合併(二〇〇二年のことでした)によるものですし、支部の多店舗展開が短期間(五
年)で出来たのも、地方の先生の事業承継をお手伝いした結果が大きいと言えます。
 私の経験から言うと、単純にM&Aをしただけでは不十分だ、ということ。規模が大きくは
なりますが、収益性を確保するには、ひと工夫が要りますね。
 まず、営業力が求められます。単純M&Aでは、M&Aをしたときがピークで後は売上減少
するだけです。しかもコストはM&Aで膨らんでそのままですから、売上を上げないとまずい。
 ですから、かなり営業力のある会社ではないと、単純M&Aだけではどうでしょう? とい
うのが感想です。
 古い話ですが、合併で出来た新日鉄が、合併後全然売上が増えていない。大分前ですが、こ
んな記事を読んだ記憶があります。この記事は、なぜか印象に残っていますね。
 またM&Aは、財務がいい企業ほど優位性がありますね。
 最近、コダックの倒産で、富士フイルムがその比較で注目を浴びています。富士フイルムは、
M&Aで多角化しました。
 富士フイルムは、かつて「高樹町(旧本社の地名)の貯金箱」というくらい、財務が潤沢で
した。その豊富な資金でM&Aをしたのですから、少々の失敗には目をつぶれます。
 自己資金でできればよいのですが、もしM&Aの度に銀行に頼っていたらリスクが膨らみま
すよね。
 さらにM&Aはすべてにおいて人間関係がからむ話です。単純にはいきません。この手の話
は、当事者がお墓まで持っていく話も多いのではないでしょうか。
 ところで、私は個人的に、住生活グループに注目しています。
 「健康の為なら死んでもいい」という話がありましたが、「M&Aの為なら死んでもいい」な
んて感じでM&Aを繰り返しています。正しい戦略だったかどうかは、何年後かに結果がでま
すね。
 なぜがんばらなくても成長できるか、そのヒントはケーズデンキにありそうです。
 がんばらない経営のケーズデンキは、M&Aを効果的に利用して成長してきた企業です。ヤ
マダ電機が大型店をテコに当時業界トップだったコジマを抜いて業界トップの座に躍り出たの
が二〇〇二年。その後、ヤマダ電機の攻勢に耐えきれなくなった地方の家電チェーンが相次い
でケーズの傘下に下ってきたそうです(図2)。
 M&Aをして企業を再生させ扱ってきた日本電産の永守社長は、M&Aの注意点として三つ
のポイントを挙げています。
 まず一つめが、「その会社を買ってすぐに合併するとか、本社から社長を派遣するとかいう
ことをしない」。永守社長はこれを連邦経営と呼んでいるそうですが、基本的には従業員も経
営者も替えずに一緒に経営していく、と言います。
 二つめが、「買収する会社のブランドを残す」。元のブランドが残っていることは、被合併法
人の社員に大きな安心感を与えると言います。
 三つめが「再建が終わったら基本的に本社の人間は全員引き上げる」。買収当初はいろいろ
な応援をしなければいけませんから、本社から応援の人を出すそうですが、再建が終われば人
の面で元の会社に戻す、ということです。
 M&Aというと、とかく合併法人が被合併法人は傘下だ、とばかりに人を大量に送り込んだ
り、性急にやり方を押しつけたりしがちですから、このあたりは注意したいところです。
 がんばりすぎないこと、差別化すること、M&Aは、右肩下がりの経済下でも有効な戦略に
なると思います。

リーダーは、いつも有事と思い、準備すること。何が起きてもびっくりしない胆識が必要。タフであれ! また経済が下り局面を迎えた今の時代には、ブランディングなどによる差別化やM&Aを積極的に活用することは、大きな企業戦略となる。