1-2.経営学はビジネスに役立つのか

経営者は理屈っぽい
──経営学は机上のもの?
 二〇一一年に上梓した『経営ノート二〇一一』で、私は「理論より実践」ということを強調
しました。ビジネスモデルは儚いもので、すぐにまねされてしまう。だから、優れたビジネス
モデルづくりに時間をかけるよりも、今目の前にある経営課題やオペレーションの問題をすぐ
に改善する実践を優先させるほうがよい、という意味あいでした。
 さて、今年の『経営ノート二〇一二』では、前述のように「理論も実践も」がテーマです。
経営の理論的な根拠といえば経営学。そこで今回は、経営学は実際のビジネスに役立つのか、
という話をいたします。
 「経営学は経営学者の意見に過ぎず、机上のもの」「実際経営したことのない人の意見など役
に立たない」という人もいます。でも私は、経営学は先人の知恵の結晶であり、利用して損な
ことはない、と思っています。自分の経験だけでは限界があります。他人の経験をタダ同然で
手に入れることが出来る本を利用しない手はないと思いませんか?
 本屋で平積みにしているような、日本の経営者が書いた本も役に立ちますね。こんなに自分
の事業をオープンにしていいのかな、というくらい書いてくれます。「飲み屋でも自分の事業
をベラベラしゃべってしまう。興が乗ると、紙ナプキンに自分のビジネスモデルを書く」、と
ある経営学者が言っていました。日本の経営者は、ホントに人がいい(笑)。もっとも、自分
でこの『経営ノート』を書きながら、いや他人の本の受け売りばかりだな、と、苦笑しながら
書いています。
──経営学の意義
 話は逸れましたが、経営学を学ぶことの意義(私見ですが)として、自分のビジネスに応用
できる、ということも挙げられます。
 自分の会社である施策を実施しようと考えたとき、理論的にはどのような結果が得られるの
か、その結果は自社の経営戦略にとってどのような位置づけになるのか、という仮説が立てら
れます。私の場合、経営書には随分助けられました。
 そういえば日本の経営者には、理屈っぽい人が多い。本が書けるくらいなのですから、それ
なりに理屈っぽいのでしょうけれど、皆さんよく勉強されている。ある人が経営者を集めたトッ
プセミナーで統計をとったら「参加会社のその後の業績は座席に座った順通りになった。」とか。
だから私はセミナーに行ったら人より前に座れ、と言っています。ファーストリテイリングの
柳井会長も、仕事が終わると家で本を読んでいることが多いそうで、あまりパーティなどに出
席しない、なんて話をどこかの本で読みました。優れた経営者のセミナー好き、勉強好きは共
通です。私が知っている名の通った経営者は、なぜか理屈っぽい人が多いようです。
─潮田健次郎氏(住生活グループ)
 二〇〇八年三月の日本経済新聞にトステムの創業者で、住生活グループの潮田健次郎前会長
の「私の履歴書」が連載されました。とても面白い記事だったので、私はいまだに切り抜きを
持っています。
 潮田前会長は、一〇代の頃結核にかかり小学校卒業もままならなかった。それでも戦後、父
親から建具小売の仕事を引き継ぎ、会社を東京一の建具卸売業に育て上げる。昭和四〇年代初
めにアルミサッシ業界に参入。そのときすでに大手メーカーは出そろっており、最後に参入し
てきた小さい会社、という位置づけ。ところが、その最後発の弱小企業が、みるみるうちに大
手企業を追い抜いて業界トップの座に就く──といった話です。
 記事の中で、潮田前会長の勉強好きについても紹介されていました。
 特に経営計画の神様といわれた故・一倉定さんの話が好きで、社員向けの研修などで「ここ
は一倉先生の本の何ページに書いてある」なんて話をしていたそうです。古い社員の方からそ
んな話を聞いたことがあります。
 潮田前会長は、社長在任中に自らセミナーに通う程の勉強好きだったようです。しかも財務
分析、工程管理、品質管理、マクロ経済、マーケティング、労務、国際経済など、学ぶ範囲も
かなり広かったのだとか。
 同じセミナーには、大企業の役員・部長クラスの人も出席していたそうです。そうした人た
ちは、「大学の先生は実務を知らないから、空理空論で役に立たない」と話していた。
 ところが潮田前会長は、「学者は経営を普遍的に話すから、私にとって応用が利きやすい」
と感じたそうです。実際に、講義する先生たちの話は、つねに潮田前会長自身の経営の仕事の
関連で理解され、場合によってはすぐに経営に活かされたこともあるそうです。(『戦略力を高
める──最高の戦略を実現するために』平井孝志著、東洋経済新報社)
 潮田前会長のエッセイには「トップがみずからセミナーに参加せず、部長クラスが通っても
会社で役立っている様子がない。大企業に勝つチャンスだと感じた」とも書いてあります。
──小倉昌男氏(ヤマト運輸)
 もうひとつ引用しましょう。(ほとんど受け売り状態!・笑)ヤマト運輸実質創業者の小倉
さんは、常々「経営は科学だ」と言っていると聞いてノートを取っていました。その根拠とな
る記事を引用します。長いですが、私が言うより何百倍も説得力がありますのでここはちゃん
と読んでください。
 でもこの本、経営者は必読でしょうね。私もこの本では他のページでも引用していますし、
私自身、大分マネジメントの参考にしています。ちゃんと買って読んでね(笑)。
 「経営者にとって一番必要な条件は、論理的に考える力を持っていることである。なぜなら、
経営は論理の積み重ねだからである。
 経営にはいろいろな場面で計画が必要である。そして計画を立てるには、予測をしなければ
ならない。その予測が当たるか、当たらないか。経営者にとって鼎の軽重を問われる場面であ
る。
 前提条件があり、与件が与えられ、目標が決められ、行動に移す。そして、期待した通りの
結果が出るかどうか。それは、経営者の読みが深いか浅いかにかかっている。
 読みが浅いとか深いというのは、どれだけ与件を考慮したかによる。なるべくたくさんの与
件を考慮し、その重みづけが間違っていなかったら、正しい予測は可能なはずであるが、それ
が往々にして間違うのは、人間にかかわる与件は、常に不確実な要素を含んでいるからである。
 人間の心は常に動いており、また外からは測りがたいものがある。また、時と所によって、
人間の心は違う反応を起こすものである。人にはそれぞれ好みがあるが、それも流行によって
左右されるし、将来の不安があれば考え方も変わってくる。
 ただ、経営における予測は、それほど難しいものではない。事前に計画の段階だけではなく、
実施に移った後に、試行錯誤しながら条件を変化させてゆき、微調整をしながら計測していけ
ば、そんなに違いなく結果を予測できるものである。むしろ試行錯誤のやり方が大事なのであ
る。
 しかし、重大な決定をする場合には、やはり、計画の段階での予測が重要になる。こんなと
きは、充分に検討しなければならない」(『小倉昌男 経営学』小倉昌男著、日経BP社)
 ですから、経営者は経営の教科書を決しておろそかにしてはいけないと思います。
マイケル・ポーターとランチェスター!!
──マイケル・ポーターの競争戦略
──企業間の競争要因
 経営者は経営の教科書を決しておろそかにしてはいけない、と言いましたが、ではいったい
何を学べばいいのか。そこで私も実際に参考にしている経営理論を少しご紹介しようと思いま
す。
 私の個人的意見として、中小企業でも使いやすい経営理論は大きく二つあります。M・E・
ポーターの「競争の戦略」と「ランチェスター戦略」です。どちらも、言葉だけは聞いたこと
がある方も多いと思います。経営学の古典と言われるものですね。
 ポーターの「競争の戦略」は、自分の会社が属する業界や競合を分析する技法について解説
したものです。その分析技法は全部で八つありますが、中でも中心となる考え方は「ファイブ・
フォース」と「三つの基本戦略」の二つです(SWOT分析も有名ですが、ここでは省略しま
す)。
 みなさんの会社の属する業界では、日々激しい競争が繰り広げられています。この競争は競
合企業同士の争い、と思いがちですが、ポーターは競争をより広い意義に捉え直しました。そ
の広義の敵対関係を示したものが「ファイブ・フォース(五つの競争要因)」です。ファイブ・
フォースの影響を強く受ける業界ほど、競争は激しくなるという考え方です。五つの競争要因
とは次のものをいいます。
(一)新規参入者(新規参入の脅威)…
 参入障壁が低く、既存業者からの報復などもない業種は、様々な企業が業界に入ってきて競
争が激化します。M&Aなどによる参入は大きな脅威となり得ます。
(二)競争業者(業者間の敵対関係)…
 同じような規模の企業が多い、業界の成長が遅い、固定コストや在庫コストが高い、製品や
サービスの差別化がしづらい、買い手を変えるのにコストがかかる、戦略が良ければ成果が大
きい、撤退障壁が大きいなどの場合は、業者間の対立が激しくなります。
(三)代替品(代替製品・サービスの脅威)…
 その業界に属していなくても、その製品やサービスを代替する潜在能力があるものの間には、
競争関係が成り立つということです。音楽の流通がCDから音楽配信サービスに変わったこと
や、ティーバッグの紅茶がペットボトルに取って代わられるなどの例があります。
(四)買い手(買い手の交渉力)…
 取引先を変えるコストが安い、売り手の製品やサービスが買い手の製品やサービスの品質に
とってほとんど関係がない、買い手が十分な情報を持っているなどの場合、買い手の交渉力が
高まり、納期の面で業者同士を競わせたり、値引きを強要するようになります。
(五)供給業者(売り手の交渉力)…
 売り手の業界が少数の企業に牛耳られている場合などは、仕入価格の引き上げ、納期の延長
など買い手に対して高圧的態度で臨むことがあります。また、アップルのiPhone製造の外
注先だったサムスン電子がGALAXY携帯を売り出すなど、仕入先が突然同業者として新規
参入する脅威もあります。
 ファイブ・フォースで弊社が属する業界を見てみると、例えば、税理士の業界はつくづく恵
まれているなーと思いますね。
 五つの脅威のうち、まず(一)の新規参入の脅威。これは、税理士でなければできませんの
で、参入障壁が他業界よりずっと高いですから、新規参入が圧倒的に少ない。飲食店なんか、
すごく流行っていても、絶えず新規参入がありますから、うかうか出来ない。あっという間に
負けてしまいます。
 余談ですが、世界一と言われているウオーレンバフェットは、参入障壁の高い業種にしか投
資しないと言われています。
 仕入れもないですから、(五)の売り手の交渉力もありません。
 (四)の買い手の交渉力は、最近でこそ入札なども増えて来ましたが、特命受注もまだまだ、
かなりあります。これも他業界より恵まれています。
 真の脅威は、(二)のライバルとの競合、それから、(三)の代替品の脅威だけですから、五
つの競争要因のうち、五分の二で済みます。
 もっと絞れば、私の経験では、税理士業界は、代替品の脅威が一番でしたね。安くなったパ
ソコンの財務ソフトとの競合。私がこの業界に入った当初(約三五年前)は、試算表を作れる
だけで威張れましたものね。
 ある大会社の経理部では、経理部長だけが各勘定科目の残高を知っていて、部下が補助簿を
記載して、持ってくるとその残高を見ながら、「残高が違う」と何回もやりなおさせたという
話を聞いたことがあります。まだかけだしの頃の話ですが、ホント牧歌的な時代(笑)。
 でもあと一〇年後は税理士の業界だってわかりませんよね。
 弊社でも常々「俺の時代はまだもつだろうけど残り少ないから」と言ってはいるのですが
……。なかなか、なかなか(笑)。
──「ファイブ・フォース」競争戦略
 ところで、企業は外からの競争要因から身を守り、長期的に成長させていかなければなりま
せん。そのための基本的な戦略は、結局三つしかないとポーターは結論づけています。その三
つとは「コストリーダーシップ」「差別化」「集中」です。
 コストリーダーシップとは、徹底した低コスト体質を武器にして五つの競争要因に対処する
戦略です。差別化は逆に他の企業にない特色を作ることで五つの競争要因から身を守る戦略で
す。集中とは、経営資源を集中し、特定のセグメントでコストリーダーシップや差別化を図る
ことで競争要因から身を守る戦略です。コストリーダーシップと差別化がベーシックな戦略と
してあった上で、これを特定のセグメントで実行すると集中になるといえます(図1)。
 よく三つの基本戦略として、自動車メーカーの例を挙げています。コストリーダーシップは、
トヨタ。差別化は、かつて「六本木のカローラ」と言われたBMW、あるいはフェラーリかな。
集中は、小型車に特化しているスズキ。実にわかりやすい例です。
 大会社の例だから関係ないと思わないで、自社の戦略を構築する時の参考に私はなると思っ
ています。
 差別化は、おおごとに考えない方がいいですし、コストリーダーシップは、事業化出来た非
製造業(サービス業)での共通項です。これについては、後述します。
マイケル・ポーターとランチェスター!!
── ランチェスター理論とは
──自社が一位になるカテゴリーを探す
 税理士事務所を開業した当初、当時大手会計事務所の先生の話で、「地域を絞ってナンバー
ワンになる」と聞いた時、私は大きな衝撃を受けました。今でも覚えています。
 その後、その先生の会計事務所がナンバーワンになったかどうかはわかりませんが、これが
ランチェスター理論との初めての出会いでした。
 それから興味をもって買って「積ん読(積んどく(笑))」したのは田岡信夫氏の『ランチェ
スター販売戦略』でした。でも今でも思い出すのは、「セールスは、県単位でやってはいけない、
旧藩単位で攻めろ」ということぐらいですかね。当時、なるほどなーと思いました、今でも鮮
明です。
 ランチェスターを分かりやすく勉強するなら、『ランチェスター弱者必勝の戦略―強者に勝

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の原則』(竹田陽一著、サンマーク出版)です。読み物としてもとてもおもしろい。竹田
さんはその本で「戦略とは『合理的な勝ち方のルール』」と言っています。ランチェスター流
に言えば、ビジネスは、合理性七割、感性三割なのかな。
 さて、「ランチェスター戦略」は、セールスプロモーションビューローに所属していた日本
の田岡信夫氏の手により完成された戦略です。ランチェスター戦略の基本となったものは、イ
ギリスのランチェスター氏が第一次世界大戦を研究し構築した「ランチェスター理論」、アメ
リカのクープマン氏らの作戦研究班がランチェスター理論をもとに編みだした「ランチェス
ター戦略モデル式」といった、戦争時の戦力とその損害量を定量的に分析したものです。こう
した戦略を、社会心理学等の深い知識をベースに経営の分野に応用し、再構築したものが「ラ
ンチェスター戦略」です。
 ランチェスター戦略は、利益を出す(ひいては企業の財務体質をよくして持続可能な企業を
つくる)ためには、市場シェアを非常に重視するところが特徴です。さらに、シェアアップの
プロセスがシンプルでわかりやすく、効果も大きいというのも特徴です。
 シェアをアップさせるなんて言われても、うちは小さい会社だから無理だよ、なんて思うこ
とはありません。ここでいうシェアアップは、何が何でも全国一位のシェアを目指すのではな
く、一位になれるカテゴリーを探す、ということが大事だということです。
 たとえば、『経営ノート二〇一一』でも少しご紹介しましたが、スーパーマーケットの売上
高シェアを全国で見ると一位がイオンリテール、二位がイトーヨーカ堂です。ただ、この二社
のシェアの合計は二五パーセントにも届きません。逆にシェアのトップ四社を除いたその他の
企業の合計シェアは、なんと六割を超えています。地域のスーパーマーケットが相当頑張って
いることがよくわかりますよね。限られた地域で高いシェアを獲得する、ということはランチェ
スター戦略的なシェアアップの考え方に合致します。
 ですから、小売業界の特徴は局地戦だということになります。ナショナルチェーンが必ずし
も強くないことがおわかりでしょう(これは会計業界も同じです)。
 絞るカテゴリーは地域だけとは限りません。たとえば「自動車総販売台数」というカテゴリー
でシェアを見れば、トップはトヨタ自動車になります。ところがこれを「軽自動車」というセ
グメントに商品を絞ってみると、ダイハツ工業がトップシェアになります。
 もう少し細かくカテゴリーを絞る例もあります。いなば食品は、キャットフードというセグ
メント全体の国内市場シェアは第六位(七パーセント程度)ですが、キャットフードをさらに
細かく分けたキャットスナックのカテゴリーでは五割近い圧倒的なシェアを握るナンバーワン
企業です。
 私はランチェスター戦略のナンバーワンを目指す戦略を変形させて、「分子企業になる戦略」
というものを『経営ノート二〇一一』でご紹介しました。「分子企業になる」とは、まずその
カテゴリーの中で、その他大勢から抜け出して本気で勝負する企業になれ、という意味です。
どんなにカテゴリーを細かくしてもナンバーワンは難しい。であるならば、その他大勢を抜け
出すことを第一目標にする、ということは現実的な戦略ではないかと思います。(ナンバーワ
ンは、一つしかありませんものね)。
 もう一つ特徴的な点は、戦略の考え方を「弱者の戦略」と「強者の戦略」の二つに分けてい
る点です。何が強者の戦略で何が弱者の戦略か、は、後ほど詳しくご説明いたしますが、弱者
は弱者なりの戦い方がある、ということが示されています。心強いでしょう?
──トップは強者?
 企業の多くは弱者(業界二位以下の企業)ですから、大半の企業は、「弱者の戦略」が基本
戦略となりますね。でも地域や商品で細かくカテゴリーを分けていくと、大会社でも商品によっ
ては弱者であることが圧倒的に多いのです。ところが、大会社の場合、「自分はビッグだから」
という意識がどうしてもあるのでしょうか。弱者の商品で強者の戦略をとって失敗することも
たくさんあります。
 「俺はビッグだ!」と言って失速した芸能人を笑ってはいけません。大企業だって同じよう
な失敗をするのです。
 例えば、最強の頃のソニーの話です。元ソニー社長、出井伸之さんの本にこんな記述があり
ます。
 「ソニーのような『大企業』が満を持して新しいマーケットに参入すれば、後発であっても
破竹の勢いでマーケットシェアを伸ばしていくと思うかも知れませんが、実際にはそんなに簡
単ではありませんでした。レーザーディスクはパイオニアが社運を賭けて挑んできた商品。ソ
ニーの中の一事業部とパイオニア全社一丸となっての戦いとなると、そうそう勝ち目はありま
せん。
 私はこの後、当時の私と同じような『勘違い』をしている場面にずいぶんいきあたりました。
つまり、自分の事業部は『大企業ソニー全体』としてライバルと戦っていると思ってしまう。
交渉などでもやたらに強気で挑みますが、相手から見たら、ソニーという名前を背負っている
とはいえ、その事業部自体はほんの小さな新参者にすぎなかったりするのです。
 レーザーディスクでの苦労は、自らのビジネスの身の丈を知るという意味でいい勉強になり
ました」(『迷いと決断 ソニーと格闘した
10
年の記録』出井伸之著、新潮新書)
 現在のソニーの混迷を見ると、大会社でも「敵は内部にあり」なんですね。いわんや「中小
企業においてをや」
 弊社も地方にいくつかの支部があります。首都圏では多少この業界で知名度があるものの地
方ではまったく知名度がありません。
 ですから、東京から行った支部のヘッドには、くれぐれも業界大手と思うな、強者の行動を
とるな、我々は弱者だ、と戒めています。徹底できているかどうかはわかりませんが。
 ちなみに、地方支部のヘッドは東京から派遣していますが、「支部一つ潰してもかまわない
から思い切ってやれ」とハッパをかけて送り出しています。でもホントに潰したらどうしよう
(笑)。
 私の経験ですが、支部を作って一番良かったことは、支部に送りだした若手が育ったことで
す。ベテランは東京から派遣できませんから、人事はついつい若手になってしまいます。東京
だけでしたら、やはり若手には閉塞感が出て来たでしょうから、業績はともかく、若手が地方
展開で育ったこと、これが支部展開の一番の収穫だったと思っています。
─アバウト、シンプルでもいい
 余談ですが、新規事業に関しても、「俺はビッグだ」現象があります。こんな例は、トップ
自らやることが多く、余計始末が悪い(笑)。
 こんな経験があります。昔お付き合いのあった会社で、当時日の出の勢いの会社がありまし
た。若い人が新しいビジネスの企画をトップに持って行ったら、トップから「小さい、小さい」
とことごとく否定され、事業化されませんでした。
 当時、幹部が「どれか一つでも事業化されればなー」と嘆いていたことを今でも覚えていま
す。その後その会社でボツになった企画のうち、他社で事業化され発展したものもあります。
あの当時のその会社の勢いでしたら、もしやらせていたらば第二の事業の柱が出来たかもしれ
ないな、と思います。
 余談ですが、ナイキがまだベンチャー企業だった頃、当時の大手商社のニューヨーク支社に
創業者が出資のお願いに来たそうです。その後ナイキは大発展しました。その商社は、日本法
人を作る時も噛みまして、多大な収益を生みました。
 当時を知る人に聞きましたら、ニューヨーク支社長(当時)は、「あまり考えないで、おも
しろそうだから出資しただけだ」と言っていたそうです。
 今の日本の大会社では考えられないことですよね。
 こんなアバウトさ?が無くなったところにも、日本企業の低迷があるような気がします。
 シンプルだけど奥深い──というのが「ランチェスター戦略」です。
 私も競争戦略やランチェスター戦略に詳しいわけではありませんが(「なら言うな!」なん
て言わないで下さい・笑)どちらの理論も非常にわかりやすいな、という印象を持っています。
その普遍的なわかりやすさが、これらの理論が今でも頻繁に使われる理由なのかなと思います。

経営学は机上の空論ではなく、先人の知恵の結晶。経営を普遍的にとらえているので、自社の経営に置き換えて実行することができる。特にポーターの「競争の戦略」と「ランチェスター戦略」は、中小企業でも応用が利く優れた経営理論である。