4-3.機械と道具を使いこなせ

機械化とは楽になること、でも頼りすぎは禁物
 渡部昇一さんの分析では、日露戦争で日本がロシアになぜ勝ったかという原因の一つが、兵
器だったといいます。コサック騎兵という最強の騎兵に対して、日本騎兵は機関銃を装備して
対応したそうです。また日本海軍がバルチック艦隊を破ったときには伊集院信管と下瀬火薬と
いう新しい技術による強い火器を使ったそうです。
 考えてみれば、日露戦争の三〇〇年以上前、長篠の戦いで武田勝頼に勝った織田信長は、鉄
砲という道具を三列に並べて絶え間なく撃ち続ける方法で、当時最強と言われた武田の騎馬隊
を撃破しました。(注1)
 勝った要因はそれだけではないと思いますが、戦の世界では、技術と道具をうまく使いこな
すことは、成功への第一歩だと思いました。これは経営も同じです。
 この時代で成長する企業のしくみづくりのキーワードの一つは「機械化」「道具を使いこな
す」です。できるだけIT化して、ツール(道具)を使いこなす、ということ。
IT化の利点の一つは、仕事が楽になることです。うまく使えば、飛躍的に業務効率が上がり
ます。
 弊法人の例で恐縮ですが、あるソフトウェアシステムを導入したことで、これまで五十時間
かかっていた作業が一時間程度で終わるようになった。約五〇倍違います。時間を定量化して
みると、いかに効率がよくなったかがわかります。
 そもそも、デフレの経済下では単価が下がりますから、利益を出すためには量をこなして売
上を上げるか、生産性を上げるかしか方法がありません。
 ちなみに同じシステムだったら労働時間が長いほうが絶対勝てます。私は実際に、各部署の
総労働時間を調べたことがあります。結果、労働時間の長さと業績が比例することがわかりま
した。働くだけが能じゃないという人がいますが、私はうそだと思います。
 電子メールという道具が出てきたとき、これは社長のためにできたツールだと思いましたね。
電子メールがなかった時代は、社員に何か伝えることがあって朝出社しても、その社員は直行
していて結局伝えられない、ということがよくありました。今はメールを送れば連絡ができま
す。連絡にかかる時間と労力が軽減されましたね。
 最近はどこにいても簡単に情報が手に入る、連絡できるクラウドというシステムが注目され
ています。業務を効率化する道具を会社ぐるみで使っているところと個人の趣味で使っている
ところでは、大きな差がつきます。
 また機械化と道具をフル活用して、働くしくみそのものを大きく変えた会社もあります。
 産業用給水タンクや給湯設備、化学プラント向け機器などを製造するメーカー、森松工業(岐
阜県)です。ステンレス製タンクは日本トップシェアを誇り、社員数は日本に約五五〇名・上
海に約二〇〇〇名、上海子会社の純利益が五〇億円(二〇〇九年度)というのですから、立派
な企業です。
 これだけの規模を誇る企業のトップを務める松久信夫社長、月に三日程度しか出社しないそ
うです。出社しない日は遊んでいるわけではありません。会社に行かないで仕事している、と
いう話です。
 毎日通っているのは、自宅から車で五分程度の場所にある、無線LAN回線が導入されてい
る喫茶店。ノートパソコンを持ち込んで、Webカメラで工場のチェック、メールの受送信、
必要に応じて関係者に携帯電話で連絡を取る、といった仕事をするそうです。
 喫茶店なので仕事をしながら食事がとれる、食事のために外出する手間が省けます。社員が
相談や報告にきたり、電話が入ったりして仕事を中断させられることもなく、自分のやりたい
ことに集中できて効率が抜群によい(社員とはもっぱらメールでやり取りし、緊急事態や重要
な案件は担当者と携帯電話で直接話す。トラブルの対応などもデジカメ写真とメールで十分に
対応できるそうです)。
 また、国内外の八つの工場に合計二七〇台のWebカメラを設置して工場の生産状況なども
タイムリーに把握できるしくみを作り、一ケ月かかる工場視察を毎日三〇分で済むようにした。
喫茶店で仕事をすることで、冷暖房完備で光熱費もタダ、秘書も社長室も運転手も不要、工場
視察の効率化をあわせて約二〇〇〇万円のコストも削減したそうです。
 松久社長が言う、
 「ITをフル活用して無駄な時間と労力と経費をかぎりなくゼロにおさえ、それによって新
たに生まれた時間や体力を、ビジネス全体に集中的に投入する。私の喫茶店出社は、その一つ
のアプローチに過ぎない」(注2)ということは、経営にITを導入することの究極の目的ではな
いかと思います。
 ただし、機械化や道具に頼りすぎるのは禁物です。月に三日しか出社しない松久社長も、
Webカメラを使って毎日工場の視察を行っていますが、月に一度は必ず上海に視察に行くそ
うです。
 富士山に登る場合、麓から歩いて登るよりも五合目まで車を使ってそこから先を歩いて登っ
たほうが早いし、楽ですよね。車を使う部分が機械化する部分、と考えてはどうでしょうか。
早く、効率的に登りきることが、ビジネスでは重要。
 でも、車だけで富士山を登りきることはできません。最後は人の力が必要、というところも、
ビジネスでは重要。
道具としくみで平凡を非凡に、同じ人なら機械の差が売る力の差に
 仕事ができる人は、往々にして自分用にカスタマイズした便利な道具を持っています。とこ
ろが、できる人がカスタマイズした道具をそのまま他の人が使えるかというと、使えないこと
が多いのが現実です。
 ですから、いかにして優秀な人が持つ道具の便利さを標準化していくか、ということが、道
具としくみづくりの上で重要な課題になります。それができないと、とてつもなく生産性が悪
い、儲からない会社になります。
 つまり、素人をプロ化することが、道具によってできる、ということです。道具をうまく使
うと素人がプロになることは結構あります。たとえば外食産業のチェーン店で日本食を出す場
合、和食の職人を使ったらば費用がかかりすぎるので、パートのキッチン担当が作っても職人
が作ったような料理にできるようなしくみを作りますね。
 全国企業品質賞の最優秀賞を受賞した事務用品販売の老舗・九州教具は、ITを導入してビ
ギナーでも熟練者なみのサービスを提供できるしくみをつくりました。
 九州教具(長崎県大村市)が新規事業として取り組んだのはビジネスホテル事業、全くの異
業種ビジネスです。
 それでも九州教具は、客室稼働率八割、ホテル事業を経常利益の七割を稼ぐまでに成長させ
ました。その大きな原動力になったのが、ITの導入です。
 大きな特徴は、会員カードとコンピューターシステムによってお客の宿泊履歴を把握し、そ
のデータをフル活用している点です。
 たとえば、九州教具系列のホテルのいずれかで宿泊したときに「タオルが多めに欲しい」と
いう希望を出したお客に対しては、次にどの系列ホテルに宿泊しても、あらかじめ客室のタオ
ルを多めに用意する。領収書を求めたことのあるお客に対しては、何も言わなくともチェック
アウトのときに以前と同じ宛名の領収書を用意する、といった具合。
 系列ホテルの宿泊客に占めるリピーターの比率は八割にのぼるそうです。(注3)
 一流のホテルマンは、一度宿泊したお客の好みや情報はすべて頭の中に入っているそうです
が、機械を使うことで熟練者でなくとも一流のサービスに近いことができる、という好例だと
思います。まさに、ITは平凡を非凡にする。他の企業でも、まだまだ工夫するところがある
と思います。
 機械化をすすめ、道具を使いこなしているか否かは、売る力の差につながる、と思います。
同じ力の人の場合、機械と道具を使いこなしたほうが勝ちます。
 知人が、家電量販店に買い物に行ったときの話です。二つの店に出かけ、値段の安いほうで
買おうと思ったそうです。
 最初に行ったA店ではもう少し安くならないかと交渉しても販売員が価格決定できずにもじ
もじしていた。片やB店では、価格交渉すると販売員が端末をたたいて、いくら値引きします
という回答がすぐに出てきた。おそらく、ここまでは値下げができる、といった指令? が出
るのでしょうね。
 知人はB店から買ったそうです。
 これは販売員の力の差ではなく、機械化と道具を使う力の差が明暗を分けたのだと思いま
す。どちらの販売員も気持ちのよい対応をしてくれたそうですから、もしA店の販売員がB店
と同じ端末を持っていたら、A店から買ったかもしれませんよね。
 こうした「機械の力」で負ける例は、意外と多いと思います。
経営者も、システムの運用に口をだす
 機械化を進めると、システム運用面で細かい問題が頻繁に起こります。機械と道具を活用す
る大きな理由は、経営の効率化、スピード化、ワンランク上の仕事をさせるなど、マネジメン
トに大きな影響を及ぼすことばかり。これらが達成できないような機械化は、たとえ小さな問
題であったとしても積極的に見直すべきだと思います。
 ところが、システム運用面の細かい問題はトップに上がってきづらい。つい先ほど、こんな
例がありました。
 弊法人では、勤怠管理システムの中の予定管理機能を使って作業時間を集計しています。と
ころが、この予定管理機能がグーグルのカレンダー機能と連動していないのです。グーグルの
カレンダーと勤怠管理システムの予定管理を別々に入力しなければいけない。いまどきなぜシ
ステムの整合性がつかないのか、見直して欲しいというオーダーを出しました。
 実はこの問題を知る以前に、スポットの業務で使ったソフトで、なかなかいいソフトがあっ
たので試しに使ってみたらどうか、という話を社員にしました。社員からの回答は、「そのシ
ステムを入れると三度入力になる」と言われて、はじめて予定管理の問題に気づきました(お
恥ずかしい話ですが、たまたま気づいたわけです)。
 社長もシステムのオペレーションに問題がないかどうか、常に気を配るべきだと思いました。

機械と道具を使いこなし、業務の効率化を図れ。また機械化は、平凡な人が非凡な仕事をすることにつながり、同じ人でも売る力に差をもたらす。効率化して生まれた時間やコストは、労力をビジネスに集中投下せよ。機械化によって効率化、スピード化、社員がワンランク上の仕事ができることにならなければ、些細な問題でも改善すべし。