3-2.成長企業が持つ「二つの力」

実行力と徹底力
 今の会社には、実行力と徹底力が欠けるように思います。逆に、実行力と徹底力がある会社
はこのご時世でも成長できますね。
 わずか二年程度で多くの明治の偉人を輩出した松下村塾。松下村塾の掛け軸は、中国明代の
思想家・王陽明の提唱した説「知行合一」を掲げていました。
 「知行合一」とは「抑々知っている以上、それは必ず行いに顕われるものだ。知っていなが
ら行わないと云うのは、要するに知らないということだ」(注1)
 つまり、知識を身につけることは行動の始まりであり、知っていても行動しないのは知らな
いのと一緒だ、といった意味だと思います。吉田松陰の松下村塾がなぜ、あれだけ短期間であ
んなに明治の偉人を輩出したかというと、「行動学」を教えたからでしょう。
 行動しなければ知らないも同然、とにかくきちんと実行することが重要、ということは、多
くの経営者にとってキーワードのようです。
「先行きを読むヒマがあったら、仕事をしろ」(スズキ・鈴木修会長兼社長)
 「すぐやる! 必ずやる! 出来るまでやる!」(日本電産・永守重信社長)
 「マネジメントレベルとは、実行度の高さだ」(成城石井・大久保恒夫前社長)
 「商売をやって絶対に失敗しない方法が一つだけある。
 成功するまでやめないことだ」(松下電器産業の創業者 松下幸之助)
 「能書きは誰でも言える。実行、徹底、継続が難しい」
 「私は細部を重視する。事業の成功を目指すならば、ビジネスにおけるすべての基本を遂行
しなくてはいけない」(マクドナルドの創業者 レイ・クロック)
 成功している企業の経営者は、知っていることと覚悟を決めて実行することの違い、そして
徹底的に実行することの大切さと難しさを理解しているのだなと思いました。
戦略よりもオペレーション
 私は知行合一の具体的な話として、戦略も大事だけれど、オペレーションのほうがさらに大
事だと思います。成功は「小事の実行の積み重ね」の上に成り立つものだからです。
 楽天の三木谷浩史社長は、著書の中でビジネスは「Strategy, Execution, Operation すべて
のビジネスはこの三つで循環する。事業は戦略を立て、その戦略を実行するための細部を練り
上げ、確実に実行することの繰り返しでビジネスは発展していく。
 僕が最近問題だと思うのは、戦略の重要性があまりにも強調され過ぎていることだ」(注2)
 と言います。
 たとえば人物伝や成功談では、派手で説明しやすい戦略のことばかりが語られがちです。義
経の鵯越(ひよどりごえ)や、秀吉の墨俣(すのまた)一夜城など、特に軍記物の世界では枚
挙にいとまがない。
 三木谷社長は「興味があるのは戦略よりも、それをいかにして実行したかだ。その崖を駆け
下りる馬はどういう訓練をしたのか、一夜城を建てるのに何人の人間が何をしたのか。もちろ
ん、そんなことは軍記物には書かれていない。書いたって退屈で誰も読まないだろう。けれど、
物事を達成するには、その退屈な部分が重要なのだ」
 そして「失敗の原因の大半は、戦略ではなく、エグゼキューション(実行力)やオペレーショ
ンにある。戦略は間違っていない。それをやり切る手法と、その遂行に問題があることのほう
が圧倒的に多い」と言います。
 現に、楽天がインターネット・ショッピング事業のアイデアを練っていたとき、すでに大手
の何社かが実際に手がけていていずれも上手くいっていなかったそうです。そのビジネスモデ
ル自体が間違っているという人もいたそうですが、三木谷社長は、問題はエグゼキューション
にあると考えたそうです。
 当時のインターネット・ショッピングモールは、運営する企業がそれぞれの店舗のホームペー
ジを作っていました。しかし、当時のホームページは専門家でないと扱うのが難しく、商品写
真一つ入れ替えるにも時間と手間がかかっていました。バレンタインデー目前なのに、クリス
マス用品を並べているサイトまであるほど、更新頻度が低く、インターネットの武器である速
報性が全く生かされていなかった。そこで楽天では、出店者が自分で簡単にホームページを作
れるシステムを開発し、問題を解決した、といいます。(注2)
 素人でも更新が簡単にできるホームページを提供して魅力あるサイトにしたことが楽天の勝
因であって、ビジネスモデルで勝ったわけではない。意訳すると「戦略も大事だが、オペレー
ション、実行させることはもっと大事」ということなのでしょうね。
実行力と徹底力で世界的企業に打ち勝つ
 実行力と徹底力、この二つの力でベンチャー企業が世界的企業との競争に打ち勝った事例も
あります。
 一九九七年、資金不足に悩んでいたフィリピン政府が、首都のマニラを東西に分けて上下水
道の民営化に踏み切りました。西側は「水メジャー」と呼ばれる世界的企業、フランスのスエ
ズ社が受注。東側は、地元の財閥と三菱商事などが出資したマニラウォーターが運営すること
になりました。
 十年後、東西で明暗がくっきり分かれました。マニラウォーターは、二〇〇五年にフィリピ
ン証券市場に上場し、二〇〇九年には事業期間の延長承認を受けました。一方西側は、スエズ
が見切りをつけて撤退したことで、事業の再構築が進められているという有様。
 マニラウォーターは、どうやって世界的企業のスエズが撤退したようなビジネスを成功裏に
導いたのか。
 その要因は、地域に根ざす経営に徹したからだ、といいます。特に、低所得層が多く住むマ
ニラでは、各家庭に水道を引いても料金徴収が難しい。そこでマニラウォーターは「町内会」
を通じて料金を回収する仕組みを導入し、実行したそうです。
 事前に地域のリーダーと調整し、料金などで合意してから水道管の敷設や改修工事を始める、
老朽化した配管の補修を適宜行う―といった地道な改善を重ねてきたそうです。
 つまり、低所得層から料金を徴収するために町内会を通じて料金徴収をするというオペレー
ションを作り、きちんと実行できたことが、事業として成功した要因だと思います。
 民営化当初は浄水場から送られた水の六三%が漏水や盗水によって失われていたが、今では
そうした「無収水率」は十二%まで低下し、二十四時間給水率もほぼ一〇〇%を達成。オペレー
ションを確実に実行した結果で、今やマニラウォーターは、世界的な水道民営化の成功事例の
一つに数えられるようになりました。(注3)

成長企業が持つ重要な力は「実行力」と「徹底力」である。考えても行動しなければ、考えていないも同じ。オペレーション(手法)を見直し、着実に実行(エグゼキューション)すれば、中小企業が大企業に勝つチャンスも生まれる。

3-5.今、財務諸表で注目すべきポイント

法人税率が下がる局面で大事なこと
 ついこの間まで、「ケイツネ神話」というのがありました。経常利益をあげさえすればいい
という経営の方針です。
 しかし、キャッシュフローを考えると当然、「手取りいくら」になるかという「税引き後の
利益」が一番大事な筈です。
 二十年ぐらい前の拙著の題名は、ほとんどに「節税」というタイトルがついていました(笑)。
その後、日本の会社が儲からなくなったんですね、「節税」という言葉も、ほぼ死語に近くな
りました。
 でも、キャッシュフロー経営を目指すなら、節税戦略は、依然として、重要な戦略です。
 周知のように、法人税は国際競争の時代になりました。日本のように税率の高い国は、グロー
バル時代に勝てない、ということです。世界的には、税率を下げると税収があがるというパラ
ドックスがあるそうです。
日本企業の海外移転はもちろんのことですが、法人税が高いと外資系企業の日本進出も止まっ
てしまいます。
 さて、二〇一一年度の税制改正で、法人税率は、下がる方向になる模様です。税率が変わる
局面では、税務戦略がより重要になります。
 税率が高いうちに節税すると、下がった後の節税より会社にキャッシュが残るからです。
 理屈を言いますと、節税には、永久に節税できる「パーマネント節税」と、今期は節税でき
ますが、将来払わなければならない(=トータルでは払う税金が一緒)という「税の繰り延べ
でしかない節税」があります。例えば、前者は税額控除がありますし、後者は特別償却などが
あります。
 税率が下がる局面ではどうでしょうか?
 税の繰り延べでも、将来の納税は少なくなりますから、今節税した方が会社にキャッシュが
残る、というわけです。
 余談ですが、連結納税も検討課題でしょうね。繰越欠損金が取り込めるなど使い勝手がよく
なりました。
 連結納税というと難しく感じるかもしれませんが、単純な話です。たとえばグループ企業が
五社あってそのうち二社が赤字、三社が黒字で税金を払っている、という状況の場合、仮に連
結納税にすればグループ全体の利益と損失を合算して納税する。結果的に、グループ内に
キャッシュフローが残る、というしくみです。(図1)
 税制の動きがあるときは、自社にキャッシュを残すために打つ手がある、と考えて間違いな
い?!
勘定科目を変える発想
 勘定科目もボーダレスの時代ですね。勘定科目を変える発想は、景気の下降局面の営業戦略
として力を発揮します。
 こんな例があります。焼酎が何杯飲んでもタダの店が流行っているそうです。「居酒屋革命」
という店で、口コミのお客さんが一杯、いつも店が混んでいるそうです。
 この店の場合、焼酎の仕入れ代金は仕入原価ではなく、広告費として計上しているそうです
(そのかわり、いわゆる宣伝は一切しない)。確かに焼酎タダのインパクトは、下手な広告を打
つよりもよほど宣伝効果が高く、うまい戦略です。
 ちなみに本当にそれで儲かっているのか、というと、焼酎がタダということでつまみを多め
に頼む人が多く、逆に客単価が上がっているのだとか。
 そういえば昔、飲み放題の店で行列ができたとき、待っているお客さんにワインをサービス
した話があります。そのお店としては飲み放題ですから、店の外で飲んでも、店内で飲んでも
原価は一緒。 これはうまい戦略だな、と思ったものですが、焼酎タダもうまい戦略ですね。
店のコストは売価ではなく仕入れたときの価格ですから、実は安い。
 私が以前「お客さんが別のお客さんを連れてきたら、飲み物をタダで配ったら」とアドバイ
スした店がありましたが、結局実施しませんでした。
 思うに、店主は飲み物を売価で考えているようで、ひどく損する気分になるらしいのですね。
確かにドリンクの利益率は相当高いので、手放したくない気持ちはわからないでもないけれど
……商売は心理学(笑)。
 昨年、ドミノピザが時給二五〇万円のアルバイト募集を出しました。一時間限りで募集は一
名、具体的なアルバイト内容やアルバイトの日程は応募した人にしかわからない―となんとも
奇妙な内容です。
 これは、ドミノピザ上陸二十五周年のキャンペーンを盛り上げるため、テレビブロスと共同
で企画したものです。
 狙いは的中して破格の時給(年収に匹敵する人もいるのでは?)などから注目を集め、テレ
ビやインターネットのニュースなどで大々的に取り上げられました。
 このアルバイトのバイト代は人件費ではなく広告費ですね。これも勘定科目を変える発想の
一例です。
 それにしても、このアルバイト、何をしたんだろう?(笑)
デフレの時代は貸借対照表に注目
 高度経済成長の頃は、損益計算書だけ見ていればよかった、と思っています。インフレの時
代でしたから、土地をはじめ、資産の値段は上がる一方で含み益が出るだけですから、貸借対
照表はあまり見る必要がなかった。
 ところが一転、デフレは逆です。資産の価値は目減りする一方なので、借入金の実質的な負
担が重くなってきます。
 ですから、たえず貸借対照表をチェックしなければいけません。
 私たち税理士法人の主な顧客である中小企業の経営者は、損益計算書は大体理解しています。
しかし、貸借対照表を見るということについては、まだ慣れていないように思います。繰り返
しになりますが、デフレの時代は貸借対照表がとても重要なので、経営者にわかりやすく貸借
対照表の読み方を教えることは、私たちの使命なのかなと思っています。

法人税率が下がる局面では節税戦略が重要になる。勘定科目を変える発想は、営業戦略の一環として考えるべきだ。また、デフレの時代は貸借対照表を見よ!