2-1.企業のコンプライアンス

築城一〇〇年落城一瞬
──落城の瞬間
  「築城三年落城一日」。有名な言い伝えです。築くのに長い年月をかけても、瓦解はあっとい う間ということですが。
 
どうでしょう、現在は、「築城一〇〇年落城一瞬」の時代に突入したのではないでしょうか?
 
思うにきっかけは、雪印社の偽装事件(注四)が、終わりの始まりだったような気がします。  
記憶が定かでありませんが、社長が、マスコミに向かって、「俺は寝てないんだ」と怒鳴っ た途端、映像が全国にバッチリ流れ、それを契機に会社が瓦解しました。あの名門企業が、「ユキズルシ」なんて言われながら…。
「映像は、こわいなー」。印象的でしたね(実は、当時の社長さんがマージャン好きで、徹マンは平気だという話も聞いたりしたんですが…。真偽の程は…?)。
 
それから、毎年出ますよね。白い恋人が黒い恋人になったり、ささやき女将事件、皆面白おかしく報道されますし、真偽の検証よりマスコミ報道が先になります。ともかく企業にとって一度問題になりますと、企業のダメージとそれを回復するコストは莫大なものです。

──攻めて、守る、両方できなきゃ死が待つ
 
ですから、今年のもうひとつのテーマは攻めて、守る経営です。つくづく、攻めるだけじゃダメだなーと思います。守りも固めなきゃ…と。
 
コンプライアンス経営と言われて久しいですが、ほんとにちょっとした不祥事で企業が突然死する時代になりました。
 
攻めも強いが、守りも強い。こんな会社しか残らなくなったんですね。「言うは易く行うは難し」ですけど。
 
でも守りって難しいですよね。究極のコンプライアンスは、「何もやらないこと」に行き着きますので。
太平洋戦争末期、本土防衛で全国守りを固めよ、という作戦があったそうです。昔の人に聞いたことがありますが、「ともかく、守りは難しい、日本の離れ小島まで守ろうと思ったら不可能だった」(ちなみに、「千早城の戦いの楠木正成を真似て、岸壁から、石を落としたらどうか」なんて議論もマジメにしたそうです「貧すれば鈍する」です。これでは、勝てません)。
──ウソはダメよ!
 
さて二〇一三年も、「食品の誤表示」で大騒ぎでした。(図 7)
 
今年に入り、とうとう作曲まで偽装が発覚しました。(注五)
 
昔は、こんなに黒豚がいるかと思うほどレストランのメニューに出ていましたし、「天然フグ」もウソみたいな値段で出されてもいました。「天然フグが一匹あれば、あとは養殖でも天然の表示ができるんだ」と教えられ、そんなもんかなーと思っていました。
  「本郷君、日本人はナマと天然に弱いんだよ」。したり顔で教えてくれた先輩の言葉に、感心 をしたことを覚えています。
 
そう言えば「毛生え薬」は不当表示で、「育毛促進剤」になりました。でも、堂々と昔は、「毛生え薬」と言っていましたからね。
でも、どうでしょう。大企業ならいざ知らず、中小企業でのコンプライアンスは、至難の業です。コストもかかりますしね。でも、やらなきゃダメなのも事実です。
 
そこで優先順位を考えてみますと、まず「ウソはダメよ」でほとんど日本の場合は、カバーできます。日本のコンプライアンスのほとんどは、偽装事件ですかね。
 
それと、反社会的勢力との取引、これもダメ出しです。「透明性」と言います。
 
何年か前でしたが、こんな話を有名な先生から講義で、聞いたことがあります。「透明性、透明性と言うけど、皆さん、奥さんに全部ホントのことを言いますか?」妙に説得力がありましたね(笑)。
(ちなみに若い人に、奥さんにホントのことを言うか?
 
と聞いたことがあります。「絶対ウソは言いません。なにかあったら、すぐ謝る」と言うんですね。時代は確実に変わっています)。
 
ですから、現実的な対応策は、「ウソはダメ」にフォーカスすることです。
 
中小企業の対応は、コンプライアンスをすべてやったら、コストが膨大です。「ウソはダメよ」。
これが、優先順位の一番です。コンプライアンス担当を決めて、なにか問題があったら、トップに上がる仕組みを作る。そして、そんな社内カルチャーを作る。トップ直轄が良いですね。
ある会社のように、トップ自らが隠ぺいを指示したケースもあります。気持ちは解ります(笑)。
実はこれが最悪でありまして!
 
ネット時代です。すぐバレバレです。
 
オネスティ・イズ・ザ・ベストポリシー(Honesty  is  the best  policy. )。経営者はキモ
に命じることが肝要です。変わる環境、変わらない経営者になっていませんか?
  「何年か前は不問だったから、大丈夫だ」。その経営者自身の意識が、実は問題です。
 
自戒を込めて!(笑)

(注五)作曲の偽装(佐村河内守氏ゴーストライター問題)…現代のベートーベンと言われ、聴覚障害を持ちながら「交響曲第 1 番(HIROSHIMA)」などを作曲したとして脚光を浴びたが、二〇一四年二月、自作としていた曲がゴーストライターの代作によるものと発覚。聴覚障害の程度についても疑義をもれている。この件に関して、特集番組を放送した NHK の会長が会見で謝罪するという騒動にまで広がった。

──M&Aの会社は気を付けろ!
 
それと問題を大きくするのは、対策が後手後手に回ることです。それが、もう一つの事件の共通項です。
 
例えば、カネボウ化粧品の「白斑」事件でも、一〇ヶ月対策を取りませんでした(「日本経済新聞」二〇一三年九月一二日)。あの花王のグループでさえ、「組織的問題」と言われました(ご存知のように、カネボウは、花王がM&Aして、吸収した会社です)。M&Aの時代です。
モラル低下をいう記事もありました。「組織的問題が大きい。事なかれ主義によって問題を放置したことが発覚を遅らせた」(カネボウ問題調査報告での中込弁護士の弁『週刊ダイヤモンド』二〇一三年一二月二一日号)
 
M&Aを繰り返している会社も他人事では無い筈です(マルハニチロHDも合併会社で、しかもアクリフーズ社は、元雪印です)。
 
対策が後手に回ったケースは、例を挙げればきりがありません。でも、「対策の遅れ」が命取りになります。「偽装、隠ぺい、対策遅れ」これが三点セットかな?
 
月並みですがこれへの対処、これは隠したくなる人間の特性と真逆なことをしなければなりません。従業員のモラルハザードも問題です。  やっぱり、防ぐのは、経営者次第ということに行きつくのですが…。明日は我が身です。
──コンプライアンス重視は、情報の共有化を促進する
 
自社で、コンプライアンスの実務をやってみて、分かったのですが、「面倒なだけではないな、これは、組織的情報の共有化を否応なく、促進させることができるな?」こんな風に思いました。例えば、営業のような属人的になりがちな職種があります。
でも、コンプライアンスを推進するうえで、各人がどんなことをやっているのか、組織的に把握せざるを得ません。
 
とかく営業マンは、自分の情報を出したがらないですものね。コンプライアンスが情報を吐き出す錦の御旗になります。属人的営業から、組織的営業に切り替えるチャンスでもあるんですね。もちろん、営業だけではありません。あらゆる部署で、情報の共有化が図れます。
 
守りながら攻めに転じる、コンプライアンスは、大きなツールと考えてみてはいかがでしょうか。
──何が起こるか分からない時代
 
偽造でしたら、経営者自身の問題です。でも、食品会社が狙われるフードテロと言われる毒物混入とか、ノロウイルスの集団発生とか、これで当該会社のダメージは計り知れません。これは、まったく経営者の想定外のことです。
 
なにが起こるか分からない時代、経営者は覚悟がいりますし、その危機管理に膨大なお金がかかります。PR会社の主な収益源は、「謝り方の指導」と言う話を聞いてから、随分経ちますね。それでも、記者会見の結果、謝り方がまずくて、社長が辞任するなんてことも、今でも起こっています。
「アクリフーズ農薬混入事件」では、親会社のマルハニチロHDの社長まで辞任に追い込まれました。当該企業ではありません、親会社の社長さんがですよ。業績如何に関係なく、辞任です。社長さんが優秀だったら、それで辞任することは企業にとっても大きな損失です。

──大層金がかかる時代、収益力アップ、財務基盤の充実は急務
 
さて、こんな世の中です。危機管理コストを会社は、引き当てておかなければなりません。
すると、行きつく先は会社の収益力のアップです。日本の平均の利益率は、約三・三%(二〇一一年度経済産業省調べ)です。  欧米の三分の一程度で、世界的にみて低水準です。あのヤマトHDでさえ、クール宅急便の 問題で減益です(ヤマトHD、営業益前年比三%減、二〇一三年四〜一二月期、『クール問題でコスト増』「日本経済新聞」二〇一四年一月二八日)。ヤマトですから、それでも吸収できま
す。
 
でも、体力のない中小でしたら、もちません。ノロウイルスの食パン会社、この会社は将来どうなるんだろう?
 
他人事ではありませんよね。
JR北海道に至っては、到底浮上できないような、赤字を毎年垂れ流しています。経営安定基金の運用益だけで、成り立っている会社です。これでは、コンプラ以前ですものね。
 
ともあれ経営者は、やることが多くて目が回りそう。経営者は好きでないとできない時代かな?(笑)

──企業文化の構築
「ピンチの後にチャンスあり!」。これは野球だけで、経営の世界は「ピンチの後にチャンス はない!」「ピンチの後はピンチだけ!」です。
 
逆にうまくいっているときは、なにをやってもうまく行く。しかし、その得意な時に、崩壊の芽がある。私の経験から見ても、これも経営の鉄則です。
 
でも、経営者も生身の人間ですから、調子に乗ることだってありますし、うまく行かないケースの方が多いのが現実です。
 
大体、モラルとか倫理を言い出すのは自分が枯れて、悪さができなくなってからですものね(笑)。
ですから全部経営者が負担する、これも経営者自身しんどいですし、組織として脆い。
 
やはり、コンプライアンス文化というか、そう言った企業文化の構築は、不可欠だと思うんです。
 
そんな風に考えると、日本の古い言い伝えは、いいですよね。
 
・ちょっと変だよ!
 
・人から後ろ指をさされるようなことはするな!
 
・お天道様が見ているよ!
 
この方が、よっぽど分かり易い。でも、若い人には、「お天道様」の説明からしないといけないかもしれません。弊社も、これを社員手帳に入れています。読んでいるといいんですが…
(笑)。

──企業もメディア化しなければならない
  『メディア化する企業はなぜ強いのか?』(小林弘人著、技術評論社)という本があります。
 
その中の一節に、次の様なことが書いてありました。
  「あらゆる情報を包み隠さず提供する」。
  「自社製品だけではなく、他社製品を薦めることもある」。
  「真実はいずれ顧客に知り尽くされる」。
「メディア化戦略でもっとも大切なことは、情報発信とコミュニケーションを継続させる努力」
 
メディアの時代なんですね。映像の時代でもあります。すぐなにかあれば、映像で赤裸々に放送されます。メディアの属性を熟知して、逆に企業もメディア化する、これも経営者のこれからの役割かもしれません。

──ネットの伝播力
 
ご存知のように、ネットの伝播力と破壊力は驚異的です。風評だけでも、命取りになりかねません。でもこれって防ぎようがありません。経営者はこの波にも立ち向かい、乗り越えなければなりません。
 
これは答えがないですからとても厄介です。経営者は、ハラを決めて対処しろなんて意見もありますが…。経営者だって生身の人間ですものね。

【POINT】
たった一人の従業員が会社をつぶしてしまう、社長を辞任 に追い込んでしまう時代。 利益を取りに攻めるのと同時に、会社の内部を堅固なも のにしなければならない。 Honesty is the best policy (正直が最良の策)であ ることを忘れてはいけない。