2-1 . キーワードに行く前に、 二〇一三年、私が気になるキーワード

リスクを取らないことがリスクの時代
──チャンスとリスク
 
二一世紀は何が起こるかわからない、不安定、不確実な時代と言われています。
 
ですから、ノーリスクで経営できる保証はなにもない、と思って経営した方がいい時代でもあります。
 
極論すれば、「リスクを取らないことがリスクになる」時代とも言えます。
 
逆に言いますと、安定経営などあり得ないと思って、経営する時代でもあります。
 
一方では、すごいリスクだと思っても、見かけより、少ないリスクもあります。
 
これを見分けるのも、経営者の大きな資質の一つになりました。
 
人間は、そもそも、リスクを大きめに見積もる動物です。
その結果、大きなビジネスチャンスを見過ごす、判断ミスをすることもしばしばあります。
 
これは、心理学で「ネガティビティ・バイアス」と言うんだそうです。
 
この現象は、日常生活でも頻繁に現れます。
  「あの人とは一緒に仕事をしない方がよい」と強く釘をさされるのと、「あの人と一緒に仕事をするとよい」と強く推薦されるのとでは、前者の方が鮮明に印象に残る。
  「型破りな提案をしたら、上司にどう思われるだろう」という不安が、「仕事ぶりに感心してくれるだろう」という思いを圧倒する。
  「その結果、人間はしばしば三つの判断ミスをしてしまう。
  
①脅威を実際より大きく見る。
  
②チャンスは実際より小さく受けとめる。
  
③脅威に対処してチャンスをつかむための手立てを過小評価する。」
(『スタートアップ!〜シリコンバレー流成功する自己実現の秘訣』(リード・ホフマン/ベン・ カスノーカ著、有賀裕子訳・伊藤穣一序文・日経BP社))
経営者は、新規事業で、すごいリスクをとったと思っても、実際は、大したことがないケースも多いということではないでしょうか。
 
ですから、
  「『絶対確実』はありえないから、不確実性をリスクと混同してはいけない。」
  「ほかの人がリスクを誤解しているなら、自分はそのチャンスを追い求めよう。」
  「短期のリスクは長期の安定性を高める。」(同書より)
 
リスクは避けるものと思いこんでいると、ビジネスチャンスを逃してしまいます。
 
リスク回避の風潮の中で、あえて、リスクをとる、逆張りで行く。
 
これも経営者の決断力です。  逆張りは、かえって、将来の果実を大きくします。
 
余談ですが、人間はウラを取らない動物でもあります。
 
例えば、あの人はこういう人だ、とレッテルを張られるとずっとそう見られてしまいます。
 
ある人に言われると、ずっとそう思ってしまいます。
 
ネガティビティ・バイアスが人の評価にも表れるのですね。
 
昔、歌手の千昌夫さんが、歌う不動産王と言われていたとき、食事をする機会がありました。
  「マスコミは、取材もしないで、千昌夫は食事の会計の際トイレに行くと言うんだよね」
 
要するにケチだということなんですが、私は、かなり高い場所でごちそうになりましたから、
そんな人ではなかったですね。
 
しかし、経営者は、そんな見方をするとみすみすビジネスチャンスを失いかねません。
 
私は、必ずウラを取るように気をつけています。
──孫さんは、腕のいいギャンブラー
 
そう言えば後述する本の著者は、孫さんを腕のいいギャンブラーである評価していました。
 
孫さんをよく知る経営者に聞いたことがありますが、孫さんを一言でいうとなんですか?と尋ねると「なにしろあんなにリスクを取る人はいない。」という答えが返ってきました。
 
こんな記述がありました。
  「孫が成功者になった理由は、コンピューターという“黒船”に最も感性が豊かな思春期に 遭遇した僥倖はじめ、さまざま挙げられるが、孫が成功した理由をズバリ一言でいえば、きわめて選球眼にすぐれたギャンブラーだったからだといえる。」(『あんぽん─孫正義伝─』佐野眞一著、小学館)
余談ですが、私は佐野さんの、『完本カリスマ─中内㓛とダイエーの「戦後」』(筑摩書房)
というダイエーの中内㓛さんのノンフィクションを読んだことがあります。
 
名著です。
 
一世を風靡した中内さんの寂しい晩年と重ね合わせて読みますと、ジーンと来ますね。
 
芸術家は、晩年が駄作でも、ピーク時の名作は永久に残ります。
 
でも経営者だけは、過去にいかに良い作品を書いても、最後がダメでは全部駄作です。
 
寂しいですけどね。
 
芸術は静止画ですが、経営は「静止画」じゃなく「動画」です。そして、「時を告げるのではなく、時計を作るのが経営」(『ビジョナリー・カンパニー』ジェー ムズ・C・コリンズ著、日経BP社)。
 
経営は何代にもわたって、名画をかかなければならない…フー(笑)

【POINT】
二一世紀は不確実性の時代、 「リスクをとらないことがリスクになる」時代である。 リスク回避の風潮の中で、あえてリスクをとる、逆張りで 行く! これは経営者の決断力である。 成功する経営者は「選球眼のいいギャンブラー」である。