二強の戦略の違いにも注目
──「御三家」は死語、「五摂家」は化石?
かつて名古屋で、五摂家(関白・摂政に任ぜられる家)と呼ばれた絶対的な存在の企業がありました。
ご存知の様に、松坂屋・東海銀行・名鉄・中部電力・東邦ガスです。
でも、平成不況を境に、大きく変貌して、今はもう誰も言わなくなりました。
「 御三家・三羽ガラス 」
これも最近ではあまり言いません。
富士通、NEC、日立を、国産(IT)御三家と言っていましたが、これももう言いません。
かように、よく、業界ごとに「御三家 」がありました。
例えば、 「 筑豊御三家」「エンジニアリング御三家 」「 電線御三家 」「 大衆薬御三家 」等々。(ネットより)
御三家も死語に近くなりつつある?
──経済記事でも二強が躍る
経済が縮小したので、当然ですが、業界、地域ごとに二強の時代が訪れました。
経済記事でも二強の記事が躍ります。(自動車ビッグツーの時代→トヨタ・VW)
「トヨタ純利益二位、VW新興国で優位に」(日本経済新聞、二〇一二年八月一八日)
トヨタ、VWが世界的に二強だという記事でした。
私は、グローバルにも、日本でも、そして、地域でも、業界でも、大手、中小関係なく二強に収れんする傾向のような気がします。
ちょっと見渡しても、広告、薬品問屋、雑貨卸、インターネット、GMS等々随分二強に絞られた業界があります。
「ダントツの三位、でも二番目には到底届かない」
ある業界三位企業の社長の自嘲気味の会話を思い出します。
この現象は、地域、業界で、これからもっと進むんでしょうね。
──二強は戦略も違う
二〇一一年の『経営ノート』では、あらゆる業界が二強に収れんしていくと書きました。
二年経ちました。このトレンドは、じわじわと進んでいます。
グローバル、日本、地域、業界、大、中、小の規模を問わず、じわじわ、二強化が進んでいるように思われます。
「お、お隣さんは二強の一つだ!」
こんな、身近な「隣の二強」の時代が来そうです。
二強間の戦略の違いも際立ってきました。
私、個人的には、その戦略の違いが将来どうでますか、とても興味があるテーマです。 例えば、ラーメン業界は、幸楽苑と日高屋の二強になりました。
幸楽苑は、郊外型、そして、直営にこだわる。
日高屋は、都市型と戦略も大きく違います。
家電量販店での、二強は異論もあるでしょうが、ヤマダ電機とヨドバシカメラです。
ヤマダ電機は、郊外型から都会へという戦略です。
毛沢東理論の実践かな?
ヨドバシカメラは、駅前立地で、不動産も自前です。
業界は違っても、やり方の基本は一緒です。
一方、百貨店業界も大手三社に絞られてきました。
三越伊勢丹、髙島屋、大丸( J .フロントリテイリング)ですが、前の二社は、百貨店の王道を行く戦略です。新宿伊勢丹の大改築などを見てもわかります。
一方大丸は、パルコを買収して、百貨店をベースに横展開し始めました。
『激流』(二〇一二年一一月号)では現在の百貨店業界の動向を「百貨店の王道を追求して残 存者利益をしっかり固める派と、形に捉われない新感覚の発想で、百貨店をベースにしながらあらゆる層の顧客に支持される小売業を目指す派に戦略が分かれてきている。」とし、「今の消費者が百貨店に何を求めているのか、改めてその原点に帰ることが、三越伊勢丹型、 J
.フロント型で進む二大改革の行方を左右するだろう。」と結んでいます。
ご存知のように、戦略の違いは、すぐには結論は出ませんが、何年か後には、結論が出ます。
「戦術ミスはとりもどせるが、戦略ミスは取り返せない」
これは、リーダー(トップ)の腕の戦いでもあります。
──ベンツの失敗
余談ばっかりで恐縮ですが、今でも私の印象に残っているのは、ベンツとクライスラーの合併でした。
見事にベンツが失敗しましたね。
当時、「部品を共通化して世界的にコスト削減を目指す」という夢の合併でした。
その合併を評して、当時のホンダの社長は、「売れなきゃしょうがないじゃないか」と一言コメントしたのを思い出します。
結果は、ホンダの社長の方に軍配が上がりました。
ベンツだって大会社です。
当時、クライスラーを買収するために、膨大なコストと人をかけて、フィージビリティスタディをしたと思います。
その戦略が間違いだったとは言えません。
戦略はどちらも正しいが正解です。
でも何年後かに必ず結論が出ます。
経営ってやはり芸術なのかな?
──新井田傳、幸楽苑社長の独白
ちょっと引用が長いのですが、興味深い話です。
「直営店にこだわり五〇年かけて五〇〇店舗を達成。ファミレス業界が七〇〇〇億円市場、 ハンバーガー業界が六三〇〇億円市場、居酒屋業界が五〇〇〇億円市場というなか、ラーメン業界は七〇〇〇億円市場といわれています。
そのラーメン業界のなかで、まだ八三%が個人規模のお店であり、今後私たちが毎年一〇%の新規出店を一〇年間続けるということは、この個人商店との戦いと言うことです。」
「競合も多いように見えるが戦略は別。日高屋は商業ビルやオフィスビル内への出店、つま り「ビルトイン」で店舗拡大を進めています。しかも、首都圏を中心に出店する「ドミナント戦略」です。非常に効率的な展開ですが、地方には踏み出していません。成功できるかどうか未知数です。」
「幸楽苑の安さの秘訣は自前の(コミッサリー)食品加工工場。三人で一日一二万食を製造 します。コミッサリーは材料を片方で投入すると、二〇m先で製品になって出てきます。その間、人が全く介在しない。外食産業の効率化はこのコミッサリーを目指すことと考えました。」
「マクドナルドは全世界に三万店あるそうですが、そのノウハウは四つにしぼられます。低価格、一定した品質、サービス品質の高さ、そして清潔感です。
世界各国にラーメンの需要はあります。韓国のインスタントラーメンの一人当たり消費量はとっくに日本を上回っており、パリでもニューヨークでもラーメンの繁盛店がある時代です。ラーメンだってマクドナルドになれるんです。」(ゴシック筆者)(『日経ビジネス』、二〇一二年一一月二六日号)
【POINT】
①地域、業界、大手中小に関係なく、市場は二強に収れん する時代になった。 ②ただし、二強間でも戦略は異なる!
「戦術ミスはとりもどせるが、戦略ミスは取り返せな い」 これは、リーダー(トップ)の腕の戦いである。